
私たちの毎日は、仕事や人間関係、SNSから流れ込む膨大な情報、さらには社会全体の不安要素に囲まれています。その結果、多くの人が慢性的なストレスや焦りを感じ、「心が休まらない」状態に陥っています。
実際、オーストラリアのジャーナリストであるブリジッド・ディレイニーも、取材や社会問題に向き合う中で疲弊し、自分自身を見失いかけていました。
そんな彼女を救ったのが、約2300年前の古代ギリシャ・ローマで生まれたストア哲学でした。セネカやエピクテトス、マルクス・アウレリウスといった哲学者たちが残した教えは、驚くほど現代にも通用します。
本記事では、ディレイニーの実体験を通して紹介されるストア哲学のエッセンスをひも解き、私たちが日々の生活で「心穏やかに生きる」ためのヒントを探っていきます。
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ストア哲学の基本
1. 起源と背景
ストア哲学は、今から約2300年前、古代ギリシャでゼノンという哲学者によって始まりました。その後、ローマに伝わり、多くの人々に広がっていきます。特に、ローマ帝国の時代には、指導者から一般市民までが「人生をよりよく生きるための実践の知恵」として受け入れました。
つまり、ストア哲学は学問というより「生き方の教科書」に近いものでした。
2. 代表的な哲学者
- セネカ(ローマの政治家・思想家)
権力の中枢で生きながらも、心を乱されずに生きる方法を説きました。彼の言葉は「心の処方箋」ともいえるものです。 - エピクテトス(奴隷出身の哲学者)
奴隷という立場でも「心の自由は誰にも奪えない」と説き、人々に自分の内面を大切にする姿勢を教えました。 - マルクス・アウレリウス(ローマ皇帝)
国を治める皇帝でありながら「人間としてどう生きるべきか」を常に自分に問いかけ、哲学を日記に書き残しました。彼の著作『自省録』は今でも多くの人の心を支えています。
3. 教えの中心 ― 「コントロールできることに集中する」
ストア哲学のもっとも有名な考え方はこれです。
- 自分でコントロールできること
自分の考え、感情の持ち方、選択や行動 - 自分でコントロールできないこと
他人の言動、天気、運命、社会の出来事
ストア派は、「どうしても変えられないこと」に悩むのではなく、「自分がどう反応するか」に集中しなさい、と説きました。
たとえば、雨が降ること自体は変えられません。
でも「雨で嫌な気分になる」か「雨を楽しもう」と思うかは、自分次第。
この視点を持つことで、無駄なストレスから解放され、心が穏やかになります。
ポイント
ストア哲学は、古代から続く「心を整える実践の知恵」です。
- 起源は古代ギリシャ、ローマで広まった
- セネカ・エピクテトス・マルクス・アウレリウスが代表
- 「理性を働かせ、自分にコントロールできることに集中する」ことで、より落ち着いた生き方ができる
現代のストレス社会においても、大いに役立つ考え方といえます。
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ストア哲学の主な教え
1. コントロールできるものとできないものを区別する
ストア哲学の核心は「自分の力で変えられること」と「決して変えられないこと」を切り分けることです。
- 変えられないこと:天候、他人の言動や評価、試験や試合の結果、老いや死
- 変えられること:自分の行動、物事の受け取り方、努力の仕方、判断の基準
多くの人は「なぜ雨が降るのか」「なぜあの人は自分を嫌うのか」と悩みますが、これらはどれほど考えても変わりません。むしろ「雨の日でも楽しめる工夫をする」「批判を学びに変える」といった反応こそが、自分の成長につながります。
ストア派は、「不安や怒りの多くは、自分の力の及ばないことに執着するから生まれる」と考えたのです。
2. 死を意識して生きる
ストア派の思想家たちは「死は避けられない現実」と冷静に受け止めました。
- 死は誰にでも必ず訪れる。
- だから「死を恐れるよりも、限られた時間をどう生きるか」に意識を向けるべき。
セネカは『人生の短さについて』で「人生は短いのではなく、私たちが無駄にしているから短いのだ」と述べています。
スマホやSNSで気づけば何時間も過ごしてしまう現代人にも響く教えです。死を意識することは、むしろ今を丁寧に生きるための力になるのです。

3. 自分のコントロール範囲から幸せを見つける
「昇進できたら幸せ」「誰かに褒められたら安心」――こうした外部要因に依存する幸福は、常に不安定です。
一方で、ストア派は「自分の努力・日々の行動・考え方から幸せを見つける」ことを勧めます。
たとえば、
- 毎朝の散歩で自然を感じる
- 誠実に仕事をやりきった自分に満足する
- 家族との小さな会話を楽しむ
こうした内面に根ざした幸せは、外部に左右されないため安定しやすいのです。
4. 持っているものは借り物だと考える
ストア派の発想の中でも特徴的なのがこれです。
- 健康、財産、家族、地位 ― すべて「永遠に自分のもの」ではなく、自然や縁から「一時的に預かっている」だけ。
- だから失った時には「返したのだ」と受け止める。
例えば、病気で健康を失ったとき、「自分の努力が足りなかった」と悔やむのではなく、「一時的に借りていた健康を自然に返した」と考える。
この視点があると、失ったものへの執着や悲しみをやわらげ、より落ち着いた心を保てます。

5. 快楽に溺れず節度を持つ
ストア派は、快楽自体を否定していたわけではありません。
しかし「必要以上に求めると、逆に苦しみに変わる」と警告しました。
- 美味しい食事も「満腹以上」に求めれば不健康を招く。
- 娯楽も「ほどよい楽しみ」なら心を潤すが、依存すると生活を壊す。
現代でいえば、過度なSNSやお酒、買い物の衝動が当てはまります。快楽を理性でコントロールすることが、自由に生きるための条件だとストア派は考えたのです。
6. 怒りをコントロールする
セネカは「人類に最も大きな代償を払わせてきた感情は怒りだ」と語りました。
怒りは一瞬で理性を奪い、人間関係を壊し、時に戦争や暴力にまで発展します。
ストア派は、怒りに対処する具体的な方法も示しています。
- まず「立ち止まり、深呼吸する」
- 「相手の行動は自分のコントロール外」と理解する
- 「怒りによって損をするのは結局自分だ」と自覚する
現代社会でも、怒りをSNSでぶつけたり職場で爆発させたりすれば、最終的に傷つくのは自分自身。怒りを理性で鎮めることは、人生を守る知恵なのです。

ポイント
ストア哲学の教えは、
- 変えられないものを手放し、変えられるものに集中する
- 死を意識して「今」を大切に生きる
- 自分の内面から安定した幸せを見つける
- 所有物や人間関係を「借り物」と考え、執着から自由になる
- 快楽や怒りに振り回されず、理性を保つ
という実践的な指針です。
これは単なる理論ではなく、現代のストレス社会を生きる私たちが「心を乱されず、穏やかに生きる」ための実用書のような役割を果たしてくれます。

終わりに
ストア哲学の魅力は、単なる古代の思想にとどまらず、現代を生きる私たちの悩みにも直結する「実用的な生き方の指針」である点にあります。
天候や他人の評価といった変えられないものを受け入れ、自分の行動や選択に集中する。人生の有限性を意識して「今」という時間を大切にし、健康や財産、家族さえも「借り物」として感謝とともに手放す姿勢を持つ。そして、快楽や怒りといった感情に振り回されず、理性を保つ。こうした実践を積み重ねることで、私たちは外部の環境に左右されない「心の自由」を手に入れることができます。
ストア哲学は、混乱と不安に満ちた現代社会にこそ、落ち着いて穏やかに生きるための灯火となるのです。
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