人間とは何か:マーク・トウェイン ~劣等感を消滅させる劇薬~

啓発

マーク・トゥエインについて

本日は、19世紀アメリカを代表する文豪、マーク・トゥエインの作品とその人生哲学について紹介します。トゥエインは「トム・ソーヤの冒険」や「ハックルベリー・フィンの冒険」などの児童文学の名作で知られる国民的作家です。彼の作品は、現代人の生きづらさに対する解決策を提供し、自己啓発の劇薬とも言われるほどの影響力を持っています。

特に、他人との比較による自信の喪失や気分の落ち込みに悩む人々にとって、彼の作品は心強い支えとなり得ます。また、彼はトーマス・エジソンやウォルト・ディズニー、アーネスト・ヘミングウェイなど、同時代の偉人たちからも愛され、影響を与えてきました。

トゥエインの晩年に発表された作品「人間とは何か」には、彼が生涯にわたって追求した人生哲学が集約されています。しかし、この作品には彼らしいとは思えないような衝撃的な主張が含まれており、当時は匿名で発表されるほどでした。この作品を通じて、トゥエインは私たちに何を伝えようとしていたのでしょうか。

マーク・トゥエインの全体像と彼の思想を解説していきます。

人間とは何か? [ マーク・トウェイン ]

価格:1595円
(2024/1/17 11:47時点)
感想(0件)


マーク・トゥエインの生涯

まずは背景知識として、マーク・トゥエインの人生について詳しく見ていきましょう。トゥエインは1835年にアメリカのミズーリ州の小村で生まれました。4歳の時、家族と共にミシシッピ川沿いのハンニバルへ移住し、そこで少年時代を過ごします。12歳で父を亡くしたトゥエインは、地元新聞社で印刷工見習いとして働き始め、この時期に培った文才が後の作家活動の礎となります。

トゥエインの夢は当初、ミシシッピ川で航行する蒸気船の水先案内人になることでした。23歳でこの夢を叶えますが、南北戦争の勃発によりその職を失います。戦争に参加した後、新聞記者として世界を旅し、ヨーロッパ旅行体験記を連載、これが非常に好評を博し、出版が決定します。これが彼の作家としてのキャリアの始まりでした。

1873年には、「金メッキ時代」という作品を発表し、当時のアメリカ社会を風刺しました。この後、彼の代表作である「トム・ソーヤの冒険」を1876年に、「ハックルベリー・フィンの冒険」を1885年に発表。これらの作品は大ヒットし、トゥエインはアメリカ文学の中心的存在となります。

しかし、晩年には経済的な困難や家族の不幸に直面し、60歳前に破産します。それでも講演活動や新作の執筆によって借金を返済し、経済的な再建を図ります。しかし、彼の人生は次第に陰りを見せ始めます。家族の不幸に見舞われ、1896年には娘のスーザンが24歳で亡くなり、1904年には妻オリヴィアが58歳で亡くなります。その5年後、3女のジーンも29歳でこの世を去ります。こうした個人的な悲劇は、トゥエインの晩年の作品に大きな影響を与えました。

その中でも特筆すべきは、彼が1906年に発表した「人間とは何か」という作品です。この本は、人間の本質を機械として捉えるという当時としては衝撃的な主張を展開しており、激しい批判を受けました。この作品は、老人と青年の対話形式で構成されており、老人が「人間は機械である」と主張し、青年がそれに異議を唱える内容です。しかし、トゥエインがこの作品で伝えたかった深い意味は、今日でも多くの読者や研究者によって議論されています。

トゥエインは1910年に74歳で亡くなりますが、彼の晩年の作品は、彼の人生の転換点や彼が経験した苦悩を反映しており、彼の人生哲学の深い理解につながるものです。今回のブログでは、「人間とは何か」を通じて、マーク・トゥエインが最晩年に伝えたかったメッセージを読み解いていきたいと思います。


マーク・トゥエイン「人間とは何か」における「人間は機械である」のテーマ

「人間とは何か」の中でトゥエインは、人間がただのエンジン、つまり機械であるという大胆な主張を展開します。彼によれば、人間の意見や行動は生まれた環境、育った社会、読んだ本、交わした会話、そして何世紀にもわたる祖先の思考や感情など、外部の影響によって形成されます。彼は、私たちの思考や意見が完全にオリジナルであるという考え方を否定し、これらが外界からの借り物であると主張します。

さらに、トゥエインはこの考えをシェイクスピアの創造性にも適用します。彼は、シェイクスピアが偉大な劇作家になったのは、彼が豊かな環境で育ち、良い教育を受けたためであり、もし彼が劣悪な環境で育っていたら、何も生み出さなかっただろうと指摘します。トゥエインにとって、シェイクスピアのような人物もまた、外部からの情報や刺激を用いて、複雑な模様を織り出す「ゴブラン織り機」のような存在に過ぎないというのです。

Uploaded image
ゴブラン織り

この本では、老人が「人間は機械である」という考えに対し、青年がそれに反発する形で議論が進行します。トゥエインは、人間の善行や悪行も含め、あらゆる行動が外部の影響によって決定されると述べ、人間の自由意志や創造性を否定しています。このような視点は、当時の読者にとって非常に挑戦的であり、多くの疑問や議論を呼んだことでしょう。


マーク・トゥエイン「人間とは何か」における人間の基本的衝動

「人間とは何か」で、トゥエインは人間の行動の根本に自己満足の衝動があると述べています。たとえば、貧しい女の子を助ける行為も、道徳的には善とされますが、トゥエインによれば、これは単に自分の心を満足させるための行動です。つまり、慈善行為をすることで得られる精神的満足感が、その行動を選択する理由となるというのです。

トゥエインは、アレクサンダー・ハミルトンの決闘を例に挙げて、人間がいかに衝動に支配されて生きているかを示します。ハミルトンは社会的な名誉を求める衝動に従い、家族や宗教の教えを無視して決闘を受け入れ、最終的に命を落とします。トゥエインは、このような行動も自己満足の衝動の結果だと解釈します。つまり、ハミルトンは名誉やプライドのために、自分の命を賭けたのです。

本の中では老人は、人間の行動がどれほど立派であっても、その背後には自己満足を求める衝動が隠れていると主張します。彼によれば、愛や勇気などの美しい言葉の裏には、自己満足を求める人間の本質があるということです。この視点は、人間の行動の動機を深く掘り下げ、私たちの理解を促しますが、同時に受け入れがたい考え方として、多くの反論を呼ぶこともあるでしょう。

トゥエインは、人間が生まれた環境や遺伝などの外部からの影響によって動く機械であり、その原動力は自己満足であるという思想を展開します。これは、私たちがどのように行動を選択し、その選択がどのように形成されるかについて深く考えさせられます。そして、トゥエインはこの対話を通じて、読者に何を伝えようとしていたのでしょうか。


マーク・トゥエイン「人間とは何か」における外部の刺激と人間の生き方

トゥエインの「人間とは何か」では、人間の生き方が外部の刺激によって大きく変わる可能性があると述べられています。彼は、ショッキングな言葉やたまたま手に取った本の一節、不幸な出来事など、外からの刺激が人間の生き方を180度変えることがあると強調します。この点を説明するために、イグナチオ・デ・ロヨラの人生が例として挙げられています。元スペインの軍人であったロヨラは、戦闘中の負傷を機にキリストの物語や聖人伝を読み、軍人としての生き方から宗教家としての生き方へと変わり、イエズス会を創立しました。

トゥエインは、人間の生き方や理想が外部からの刺激によって変化する可能性があると指摘します。彼はまた、このような外的影響を「鍛錬」と呼び、これが自分自身や周囲に利益をもたらすと説明します。しかし、彼は鍛錬には限界があり、人間の気質は根本的に変わらないとも述べます。人間の気質とは、生まれながらにして持つ個性や性格の基礎であり、例えば社交的な人や内向的な人などがそれに当たります。

さらに、トゥエインは、人間が機械のようであり、自由な意志はなく、自動的に選択されているだけだと述べています。この考え方は、人間が受動的に生きていくしかないという悲観的な結論につながるように思えますが、トゥエインが読者に伝えたかったメッセージは何なのでしょうか。この議論を通じて、私たちは自分の生き方や選択について深く考える機会を得ることができます。


マーク・トゥエインの伝えたかったこと:人間には自由な意思が存在しない

トゥエインの「人間とは何か」の最終テーマは、人間には自由な意思が存在しないという考えです。彼によると、人間の意志や行動は生まれ持った気質と環境の影響を受けるもので、これが人間の選択を左右します。例えば

子供時代にスポーツに親しんだ人は、成人してからもスポーツを楽しむ傾向があります。例えば、小さいころからサッカーをしていた人は、大人になってからもサッカーチームに参加するか、サッカー観戦を趣味とする可能性が高くなります。これは、幼少期の環境がその人の興味や趣味に影響を与えるということです。

トゥエインは、人間の行動が自分の気質と外部からの影響によって決定されると主張します。彼の生涯を振り返ると、たまたまの偶然が彼を蒸気船の水先案内人から新聞記者、そして偉大な作家へと導いたことが明らかになります。つまり、人間は自分で物事を自由に選択していると思いがちですが、実際には自分では制御できない気質と環境によってその選択が左右されています。

しかし、老人の考えに青年は納得できず、人間の栄光やプライドを否定し、人間を単なる機械に貶めていると批判します。これに対し、老人は人間を貶めているのは青年の方だと逆に指摘します。老人の主張は、人間が生まれ持った気質や環境に従って生きているという現実を受け入れ、その上でどのように生きるべきかを考えることを促しています。

青年の考えは、人間は芸術、音楽、文学、科学、技術など様々な分野で革新的なアイディアや作品を生み出し、文化や社会の進歩に大きく貢献したり人間は自分と周囲の世界について深く考え、自己認識や自己反省を行い、意識的な意思決定をする能力を持っているというような、人間の存在に大きな価値を見いだし、人間の特権を強調しています。

一方、老人は人間が気質や環境に支配されているという現実を指摘し、これを受け入れることで自分自身の本質を理解し、真の自分として生きることの重要性を説いています。

最終的に、トゥエインは「人間とは何か」を通じて、人間の本質を理解し、現実を受け入れることの大切さを伝えています。彼のメッセージは、人間が単なる機械であるという悲観的なものではなく、自らの気質と環境を理解し、それを踏まえた上で人生をどのように生きるかを考えることの重要だといっています。

老人の立場は、人間が自己満足の衝動に従い、気質や環境によって左右される機械であるという極端な主張を通じて、自己過大評価や過小評価に陥る人々を諌め、慰めようとするものです。一方で、青年は人間の価値や存在意義を強調し、人間の特権や達成に喜びを見いだしています。これらの相反する見解は、社会の中で個々人が抱える苦悩や闘争を浮き彫りにし、人間の多様性と複雑性を示しています。

トゥエインが生涯を通じて追求したテーマは、単に夢や希望だけではなく、社会の暗部や苦境に直面する人々の感情にも焦点を当て、弱い立場の人々に寄り添う姿勢を貫いていました。このため、彼の最後の作品「人間とは何か」に託されたメッセージは、悲観的なものではなく、人類の二極化に対する戒めと慰めのメッセージと解釈することができます。

まとめ

ご興味を持ってくださった方には、実際に「人間とは何か」を手に取り、その中で展開される老人との対話を自らの目で楽しんでみてはいかがでしょうか。今回ご紹介したマーク・トゥエインのこの作品は、彼の遺書とも称されることがあります。その名の通り、彼の人生の栄光と挫折を経て得た深い洞察が込められている作品です。この作品を通じて、彼の静かで強い覚悟が垣間見えるような感覚を味わうことができるでしょう。

人間とは何か? [ マーク・トウェイン ]

価格:1595円
(2024/1/17 11:47時点)
感想(0件)

ちなみに、文響社から出版されている漫画版も非常に読みやすく、内容の理解を助けるものとなっています。この漫画版は、本作のエッセンスを効果的に伝えており、特にトゥエインの作品に馴染みのない方や、より視覚的に楽しみたい方には特におすすめです。

漫画 人間とは何か? 自己啓発の劇薬 マーク・トウェインの教え [ マーク・トウェイン ]

価格:1848円
(2024/1/17 11:44時点)
感想(3件)

以上、「人間とは何か」についての紹介でした。この作品が提供する深い洞察と、人間性に関するトゥエインの考えが、皆さんにとって有意義な読書体験となることを願っています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました