EV先進国ノルウェーのEV普及政策と石油・ガス輸出政策の間の矛盾EVは環境に悪い?!

ニュース

ノルウェーは世界で最も電気自動車(EV)の普及率が高い国として名高い存在です。2025年までに新車の全てをCO2ゼロ排出にするという野心的な目標に向けて、同国はすでに着実な歩みを続けています。その証明として、2022年には新車登録の驚くべき約80%がEVまたはハイブリッド車となりました。

しかしながら、その卓越したEV普及の裏には、ある深刻な問題が存在しています。それは、皮肉にもCO2の排出量が急増しているという事実です。一見矛盾するように思えますが、なぜ電気自動車の普及がCO2の排出量増加を招いているのでしょうか? 今回のブログエントリーでは、EVの先進国ノルウェーで明らかになったこのCO2排出の問題にスポットを当てて詳しく探っていきましょう。

ノルウェーのEV政策とその矛盾

ノルウェーといえば、その豊かな自然環境と美しい風景が人々に愛されています。2023年6月時点での人口は約550万人となっており、比較的低い人口密度が維持され、美しい自然環境が保全されています。

この美しい自然環境を守るため、ノルウェーは環境政策に力を入れています。具体的には、2025年までに新車販売の全てをCO2ゼロ排出車両、すなわち電気自動車(EV)や水素車などにするという目標を立てています。この努力の結果、2021年5月にはノルウェーの自動車市場で初めてガソリン車やディーゼル車の販売台数をEVが上回り、その後も堅調な成長を続けています。

ノルウェーの道路交通評議会(OAF)のデータによると、2021年の新車登録台数は前年に比べて24.7%増の17万6276台に達しており、特にEVの販売台数は48.1%の11万3715台で、全新車販売の約64.5%を占めました。さらに、プラグインハイブリッド車(PHEV)の販売台数も32.0%増の38,166台となり、全体の約21.7%を占め、約86%がEVとPHEVによって占められる結果となりました。

国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、ノルウェーは2021年における全自動車販売台数に占めるEVの割合が欧州で最も高かったとのことで、世界で最もEVの普及が進んでいる国となっています。

しかしながら、ノルウェー国内には新エネルギー車(NEV)を含む完成車メーカーが存在せず、そのため自国の自動車需要を満たすためには他国からの輸入が不可欠となります。2021年のノルウェーの新車販売ランキングでは、1位がアメリカのEV大手テスラのモデル3、3位が同社のモデルYとなり、テスラがノルウェーで最も売れているブランドとなりました。また、日本のトヨタのBG4X、ドイツのフォルクスワーゲンのID.4、スウェーデンのボルボのXC40といった外国の自動車メーカーの人気も高いです。

ノルウェー全土ではEVと充電スタンドの普及が進んでおり、政府の積極的な取り組みにより、国内のほとんどの地域でEVでの移動が可能となっています。充電スタンドのネットワークは民間により全国的に整備されており、主要な道路では約48km(30マイル)おきに充電スタンドが設置されています。

その他、海岸線が世界第2位の長さを誇る海辺の人気別荘地、山岳地帯、寒冷地のスキーリゾートへのルートもカバーしています。これらの先進的な取り組みは観光客を惹きつける重要な要素となっています。

それでは、なぜノルウェーはここまでEVの普及に成功したのでしょうか? その答えは、ノルウェー独自のEV優遇措置にあります。具体的には、ノルウェー政府はEVおよび水素燃料電池車(FCV)の購入者に対する様々な優遇措置を講じています。これには、自動車の付加価値税(VAT)25%や購入税、交通保険料の免除、高速道路の利用料金や駐車料金の軽減、バスレーンの使用許可などが含まれます。

しかし、人口500万人規模の国でも必要な急速充電設備が十分に供給されていないという現状があります。人口の多い南部では、長期休暇などの交通量が増える時期には大規模な充電渋滞が発生します。さらに、ウクライナ戦争の影響などで電力料金の高騰が問題となっています。ノルウェーは電力供給の大部分を占める水力発電が人口の少ない北部に位置していますが、それを南部に送る送電網が十分になく、南部は海外からの電力輸入に頼る

しかない状況です。ノルウェーの電力料金は変動するため、1カ月分の電力料金が12万円から13万円になることもあります。

水力発電はコスト効率が良いとされていますが、ノルウェーでは送電手段の不足から南部と北部で電力格差が生まれています。具体的には、南部の首都オスロ近郊では、EVの満充電に1万4000円もかかることがあります。これが続けば、ノルウェー国民が自国のEV化政策の矛盾に対して疑問や不満を抱くのは避けられません。

EVの普及を支えるための優遇策が実施されている一方で、ノルウェー政府はこれらの措置を無期限に続けることは困難だと認識しています。そのため、徐々に優遇策を縮小する方向へ舵を切る可能性があります。

この議論の中心にいるのが、ノルウェーの首都オスロの副市長、シリンヘルビンスタブです。彼女はニューヨークタイムズのインタビューで、「EVシフトは偽善であり、私たちは汚染を輸出している」と発言しました。彼女のこの発言の背後には、ノルウェーがEVの普及を推進し、国内の温室効果ガスの排出を削減する一方で、大量の原油とガスを生産し輸出しているという現状への批判があります。

1970年代から始まった北海の油田開発により、ノルウェーはサーモンやマッケレルの輸出国から、石油ガスの大量生産国に変貌しました。その結果、ノルウェーは世界14位の石油生産国となり、欧州で最も大きな天然ガス生産国にもなりました。

しかし、この石油ガス産業がもたらすCO2排出量は、EVによるCO2削減効果を大きく上回ってしまっています。実際、一部の報道では、輸出による排出量が国内のCO2削減量よりも40倍も高いと言われています。さらに、製造過程でEVは1トンのCO2を削減する一方で、45から73トンものCO2排出を引き起こすという指摘もあります。

また、ノルウェーは国内で消費される電力の約95%を水力発電によって供給していますが、水力発電は水の供給量や気候変動に大きく影響され、電力供給の安定性が問題となっています。この結果、火力発電などで生成された電力を他国から輸入しています。これは他国で発生したCO2を輸入しているとも言えます。

これらの事情から、ノルウェーが行っているEV導入策と石油ガス輸出政策の間には深刻な矛盾があります。石油ガス産業からの利益でEV普及を推進するという行為は、本当にCO2排出量削減に寄与するのか疑問が残ります。現状では、EVの普及はその性能によって自然に浸透しているわけではなく、輸出から得た大量の資金を投入して政策的に普及させているに過ぎません。

ノルウェーの事例を見て日本でもすぐに同様のEV普及が可能だと考えるのは短絡的で、実現には大規模な経済的負担が生じることを理解しなければなりません。バッテリーなどの関連技術が大幅に進歩しない限り、EVの普及はまだ当分先の話となるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました