
2026年、55カ国がワシントンに集まり、「自由市場の仕組みを見直す」と宣言しました。
それは強気な決断というよりも、30年前の選択を振り返る静かな転換点だったのかもしれません。
かつて西側諸国は、環境負荷の大きい精錬工程を中国に委ねることでコストを抑えてきました。
しかしその結果、産業の重要な部分まで海外に依存する構造が生まれ、レアアース精錬の9割以上を一国に頼る状況になりました。
一方で、AIや電気自動車、太陽光発電、さらには防衛分野まで、同じ金属資源を必要とする時代が到来しています。
銀は6年連続で供給不足が続き、各国政府も価格の安定を図る動きを見せ始めました。
過去の選択を変えることはできません。
自然の法則は、人の都合では動きません。
そして銀は紙幣のように増やすことはできません。
本記事では、歴史・物理学・金融という3つの視点から、
「なぜ銀価格は以前の水準に戻りにくいのか」をわかりやすく解説していきます。
歴史― 西側はなぜ中国に主導権を渡したのか
1️⃣ 1990年代の空気:グローバリゼーションの時代
1990年代、冷戦が終わり、世界は大きく変わりました。
アメリカやヨーロッパでは、「国境を越えて分業することが最も合理的だ」という考え方が広がります。
キーワードは「グローバリゼーション」。
- いちばん安い国で作る
- いちばん効率のいい国に任せる
- 自由貿易が世界を豊かにする
当時はそれが、ほぼ常識でした。
2️⃣ 「精錬」という見えにくい工程
そこで西側が外に出したのが、「鉱物の精錬(せいれん)」です。
精錬とは、
鉱石から不純物を取り除き、純粋な金属にする工程のこと。
例えばレアアースやリチウム、コバルトなどは、そのままでは使えません。
高度な化学処理をして、はじめて電子部品や電池に使える状態になります。
しかしこの工程は――
- 強い酸を使う
- 有害廃棄物が出る
- 放射性物質が混じることもある
- 環境規制が厳しい国ではコストが高い
つまり、「重要だけれど、できれば国内ではやりたくない」工程でした。
3️⃣ なぜ中国だったのか
当時の中国は、
- 人件費が安い
- 環境規制が緩やか
- 国家主導でインフラ投資を進めていた
という状況にありました。
西側はこう考えます:
- 環境問題を国内で抱えなくていい
- 住民の反対運動を避けられる
- 企業のコストも下げられる
短期的に見れば、とても合理的な判断でした。
4️⃣ 失われた「中間工程」
ここで重要なのは、
精錬は単なる作業ではなく「技術の塊」だということです。
例えるなら
寿司屋が包丁研ぎを外注し、やがて研ぎ方を忘れてしまう。
最初は便利でも、
時間がたつと「技術」「人材」「工場設備」「ノウハウ」が消えていきます。
30年後、西側には:
- 熟練技術者がほとんどいない
- 大規模精錬施設がない
- サプライチェーンが切れている
という状態になりました。
5️⃣ 一方で中国はどうしたか
中国はこれを「国家戦略」として捉えました。
単に安く受注するのではなく、
- 採掘
- 精錬
- 部品加工(磁石や電池材料)
という「中間工程から最終工程」までを一体化させました。
その結果、現在のシェアは非常に高くなっています。
例としてよく挙げられる数字では:
- レアアース採掘:約7割
- 精錬:約9割以上
- 磁石製造:ほぼ独占に近い水準
さらに、
- リチウム精錬
- コバルト加工
- グラファイト処理
といった電池関連素材でも大きな割合を占めています。
つまり、
世界のハイテク産業と軍事産業の「中枢部分」が中国を通る構造になったのです。
6️⃣ 2025年の輸出制限ショック
2025年、中国がレアアースの輸出を制限したとき、
欧米では自動車や電子部品の生産に影響が出る可能性が強く意識されました。
ここで初めて、
「市場に任せておけば大丈夫」という前提が揺らぎます。
7️⃣ 2026年:55カ国の政策転換
その流れの中で、55カ国が集まり、
- 最低価格保証(価格フロア)
- 戦略備蓄の拡充
- 関税措置
- 補助金投入
などを打ち出しました。
これは「自由市場だけでは安定供給を守れない」という判断です。
これは
「勝利ではなく、過去の判断を認めた転換点」ということです。
少しやわらかく言えば、
かつての合理的な選択が、長期的にはリスクになっていたことに気づいた
です。
8️⃣ なぜすぐに戻せないのか
ここが非常に重要です。
精錬施設の再建には:
- 環境許可取得
- 技術者育成
- 設備投資
- サプライチェーン再構築
が必要です。
工場は数年で建てられても、
人材と技術の蓄積は10〜20年単位になることが多い。
ここに「時間の壁」があります。
政治は法律をすぐ変えられますが、
技術の蓄積は一夜では戻りません。
物理学― 銀の需給はなぜここまで逼迫しているのか
1️⃣ なぜ「銀」なのか?
金属はたくさんあります。
その中で、なぜ銀がこれほど注目されるのでしょうか。
理由はシンプルです。
銀は「電気を最もよく通す金属」だから。
- 導電性が非常に高い
- 熱もよく伝える
- 腐食しにくい
- 高純度加工が可能
つまり、最先端技術にとって「性能を落としにくい金属」なのです。
2️⃣ 同時に起きている“需要の爆発”
いま、文明の最先端といえる4分野が、同時に拡大しています。
🔹 AIデータセンター
- 膨大な電力を扱う
- 大量の配線・接点・高性能部品が必要
🔹 電気自動車(EV)
- ガソリン車より多くの電装部品を使う
- パワー制御系統に高性能金属が必要
🔹 太陽光パネル
- 発電セルに銀ペーストを使用
- 世界的な脱炭素政策で需要拡大
🔹 軍事・宇宙技術
- 高純度・高信頼性の金属が不可欠
- 代替材料が限られる
つまり、
AI、EV、再エネ、防衛
すべてが「同時に」銀を必要としている
これが、これまでと決定的に違う点です。
3️⃣ 6年連続の供給不足
2021年以降、銀は供給不足が続いています。
- 6年連続の需給赤字
- 累積不足は数億オンス規模
- 2026年も不足予測
ここで大切なのは、
一時的な不足ではなく、「継続的」だということ。
1年だけなら調整可能です。
しかし数年続くと、在庫が削られ、余裕がなくなります。
4️⃣ なぜ増産できないのか?
ここが「物理学」の核心です。
🔹 銀の約70%は副産物
銀の多くは、
- 銅
- 鉛
- 亜鉛
などを採掘した“ついで”に採れる金属です。
つまり:
銀価格が上がっても
銀だけを増産するのは難しい
主目的が銅なら、銅の需要が増えなければ採掘は増えません。
これが「価格が上がれば供給も増える」という
教科書的な市場理論が通用しにくい理由です。
5️⃣ 鉱石の品位低下という現実
さらに、地質学的な問題があります。
- 鉱脈は年々深くなる
- 鉱石1トンあたりの銀含有量(品位)は低下傾向
- 採掘に必要なエネルギーが増える
- 水資源や環境コストも上昇
これは政治では変えられません。
自然界の条件そのものだからです。
技術革新で多少の改善はできますが、
地下資源の質そのものは変えられない。
ここに「物理的な壁」があります。
6️⃣ 価格の動き
ここ数年で銀価格は大きく動きました。
- 2025年:歴史的に強いパフォーマンス
- 2026年初:100ドルを超える場面
- 現在:約80ドル前後
価格は上下します。
しかし重要なのは、背景にある構造です。
7️⃣ “ハサミ打ち構造”とは?
現在の市場構造を一言で表すと:
上から押す力:需要爆発
下から支える力:政策介入
- AIやEVが価格を押し上げる
- 政府の価格フロアや備蓄政策が下値を支える
つまり、
上にも圧力、下にも支えがある状態
これを「ハサミ打ち構造」と表現しています。
通常、市場は価格が下がることで需給が調整されます。
しかし、下値が政策で支えられると、
調整メカニズムが弱まる可能性があります。
お金― 誰が利益を得るのか?
資源価格が「完全な自由市場」ではなく、
政策や規制の影響を強く受けるようになると、市場の性質は変わります。
ポイントは、
価格が管理される市場では、
価格差が生まれやすい
ということです。
1️⃣ なぜ仲介者が強くなるのか
通常の自由市場では、価格は比較的スムーズに均一化します。
しかし、政府が
- 最低価格を保証する
- 関税をかける
- 補助金を出す
- 輸出入を制限する
といった措置を取ると、
市場は一つではなく「複数」になります。
すると、こんな差が生まれます。
🔹 公式価格と実勢価格の差
政府が決めた価格と、実際に取引される価格がずれる。
🔹 国内価格と海外価格の差
国ごとに政策が違うため、価格に開きが出る。
🔹 規制市場と非公式市場の差
取引ルートによって値段が変わる。
この“価格差(スプレッド)”を埋める役割を担うのが、
- トレーダー
- ブローカー
- 商社
- 投資銀行
といった金融プレイヤーです。
価格差がある限り、
そこに裁定取引(アービトラージ)の機会が生まれます。
つまり、
管理された市場では
「生産者」よりも「仲介者」が利益を得やすい構造になる
可能性がある、ということです。
2️⃣ 通貨の物語:2022年の転換点
2022年、ロシアの外貨準備の一部(約3000億ドル相当)が凍結されました。
この出来事は、世界に大きな問いを投げかけました。
外貨準備は本当に“中立で安全”なのか?
この問いをきっかけに、
- 中央銀行の金購入が増加
- 実物資産への関心上昇
- 通貨分散の動き
が強まりました。
ただし、ここで重要なのは冷静さです。
「ドルがすぐ崩壊する」という見方は、現実的ではありません。
ドルは依然として:
- 国際決済の中心
- 原油取引の基軸
- 世界最大の債券市場を持つ通貨
だからです。
3️⃣ 本当のリスクは“ゆっくり進む変化”
より現実的なのは、急激な崩壊ではなく、
- ゆるやかなインフレ
- 金利の高止まり
- 通貨価値の長期的な目減り
といった「静かな変化」です。
これは一気に起きるものではなく、
10年単位で進行することが多い。
世界は徐々に多極化し、
通貨も資源も分散的な構造へ向かっています。
4️⃣ 銀の二面性
ここで銀が特別な意味を持ちます。
銀は:
- 半導体や太陽光パネルに使われる「工業資源」
- 歴史的に貨幣として使われてきた「価値保存資産」
という二面性を持っています。
需要が工業から来る一方で、
通貨への不安が高まると投資対象にもなります。
つまり、
経済が拡大しても需要があり、
通貨不安があっても注目される
という少し珍しい立ち位置です。
5️⃣ 「刷れない」という意味
政府は通貨を発行できます。
中央銀行は国債を買い、マネーを増やせます。
しかし、
地下の銀の量は増やせません。
これは単純ですが、本質的な違いです。
供給が政治で増えない資産は、
通貨の量が増え続ける世界では相対的に価値を持ちやすい。
ただし、価格は常に上下しますし、
短期的には投機の影響も受けます。
重要なのは、
- 構造変化が起きているのか
- それが長期的なものか
を見極めることです。
結論
まとめると、、
① 西側は精錬能力を失った(再建に10〜20年)
② 銀は構造的供給不足(6年連続赤字)
③ 価格フロア政策で下値は政府が支える
システムが変わったことによって
銀は二度と昔の安値には戻らない。
ということになります。

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