
2025年の国際情勢をめぐり、櫻井よしこ氏が鋭く警鐘を鳴らしています。今回のニュース解説では、ウクライナ戦争を軸に、アメリカとロシアの駆け引き、トランプ前大統領の外交戦略、変化を見せ始めたヨーロッパ諸国の安全保障政策、そして日本に突きつけられる憲法改正の課題まで、幅広いテーマが取り上げられています。世界のパワーバランスが大きく揺らぐ中、私たちは何を考え、どう動くべきなのか――。一緒に見ていきましょう。

① トランプ元大統領とプーチン大統領の会談
2025年、アメリカのトランプ前大統領は、ウクライナ戦争の早期停戦を目指して、ロシアのプーチン大統領と電話による首脳会談を行いました。トランプ氏としては、自身の得意とする「ディール(取引)」によって、戦争を終結させるための突破口を開くことを狙っていたと考えられます。しかし、実際の交渉はその思惑とは大きく異なる結果に終わりました。
この会談で主導権を握っていたのは、むしろプーチン大統領の方でした。会談前、プーチンはなんとトランプを1時間も待たせ、あえて相手を焦らすような態度を取ったと報じられています。これは、外交の場における「力の誇示」であり、トランプに対して精神的な優位を築く戦術だったと見られます。
結果的に、交渉から得られた成果はほとんどなく、むしろロシア側にとって都合の良い条件が提示される形となり、アメリカ側の“譲歩”とも受け取れる内容になってしまいました。
● 解説
櫻井よしこ氏はこの電話会談の経緯を取り上げ、トランプ氏の外交手腕に対して強い失望感をにじませています。特に問題視されたのは、「トランプ氏が会談の時間や進展の期限を自ら設定し、早期の成果を急ぎすぎた」点です。櫻井氏はこれを「交渉の場で最もやってはいけない行為」と断じています。なぜなら、こうした“期限を急ぐ姿勢”は相手に弱みを見せることになり、交渉の主導権を失いやすくなるからです。
さらに櫻井氏は、プーチン大統領の「人たらしとしての才能」にも注目しています。元KGB(旧ソ連の情報機関)出身のプーチンは、相手の心理を巧みに読み取り、必要とあれば騙し、操作することを職業としてきた人物です。彼にとって外交交渉とは、信頼や誠意に基づくものではなく、「どう相手を引き込んで、自分にとって有利な形に持ち込むか」というゲームのようなものなのです。
そのため櫻井氏は、「信頼できる相手」としてプーチンを見てしまったトランプ氏の姿勢や、形式的な交渉術では通じない現実を直視せずにいたアメリカ側の甘さに警鐘を鳴らしています。

② アメリカ歴代大統領はみなプーチンに騙されてきた?
櫻井氏は、アメリカ歴代大統領がプーチン大統領に対して繰り返し「信頼」という過ちを犯し、そのたびに裏切られてきた事実を例に挙げています。
- ビル・クリントン大統領:冷戦後のロシアとの関係改善を目指し、プーチンを西側の輪に引き込もうとしました。具体的には、G7(先進7カ国)の枠組みにロシアを加え、G8として迎え入れたのです。しかし、その後プーチンはクリミア半島を一方的に併合。国際秩序を破る行為に出たことで、ロシアは再びG8から除外され、結局信頼は裏切られる形になりました。
- ジョージ・W・ブッシュ大統領(息子):当時のプーチン大統領と初会談した際、彼の目を見て「この人物は信頼できる」と語ったことで知られています。しかしその“人間的な直感”は結果として大きな誤算でした。ロシアはその後も強権的な内政と対外政策を続け、アメリカの信頼に応えようとはしませんでした。
- バラク・オバマ大統領:よりリベラルな立場からロシアとの関係改善を模索し、プーチンに融和的な姿勢を取っていました。ところが、2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を侵攻・併合した際、オバマ政権は強硬な軍事的対応を避け、制裁にとどめました。この「行動の弱さ」が結果としてプーチンにさらなる強硬路線を取らせる要因になったとも言われています。
● 解説:
櫻井氏は、こうしたアメリカ歴代大統領たちの「プーチンに対する誤った期待や甘い評価」は、いずれも裏目に出たと指摘しています。共通しているのは、“プーチンという人物を通常の政治家として扱ってしまった”ことです。西側の価値観である「対話すれば理解し合える」「相互利益を追求すれば関係は改善できる」という前提は、情報機関出身で冷酷なリアリストであるプーチンには通用しなかったというのが櫻井氏の見立てです。
特に独裁的な性質を持つリーダーとの交渉では、人間的な信頼や善意に期待するのではなく、相手の本質を冷静に見抜く目と、対抗するだけの戦略と力が必要だというのが彼女の主張です。
櫻井氏の論調は、「国際政治における現実主義」を強く促すものであり、理想論や楽観的な見方に警鐘を鳴らしているのです。

③ 停戦条件でロシアに有利な妥協がなされた
トランプ前大統領は、停戦の実現を目指す一環として、ロシアのプーチン大統領に対し、「ウクライナがロシア国内の石油施設や発電所などのエネルギーインフラを攻撃しない」という条件を提案しました。これは一見すると、民間インフラへの攻撃を防ぎ、戦争による市民の被害を抑えるための「善意の提案」のように映るかもしれません。
しかしプーチン大統領はこの提案をあっさりと受け入れました。というのも、この条件はロシア側にとって極めて有利な内容だったからです。すでにウクライナは、ドローンを用いた攻撃によってロシアの石油関連施設に一定の打撃を与え、戦争遂行能力に影響を及ぼしていました。にもかかわらず、その手段を“自粛”することをウクライナに求める形となったのです。
● 解説:
櫻井よしこ氏は、このトランプ提案を「一方的な譲歩」であり、実質的にロシアに“戦場の自由”を与えたものだと厳しく批判しています。ウクライナにとって、ロシアの戦力や補給網を支えるエネルギー施設への攻撃は、劣勢を挽回する数少ない反撃手段でした。その唯一の反撃手段を「停戦交渉」の名の下に封じ込めてしまえば、ロシアにとっては痛くもかゆくもないばかりか、むしろ好都合です。
櫻井氏はこの構図を、「停戦の交渉」と称しながら、実態としてはウクライナの攻撃力を削ぎ、ロシアの攻撃の自由度を高めるだけの取引だったと見ています。実際、会談後すぐにロシアはウクライナの都市や民間施設に対して大規模な空爆を再開しました。これにより、戦況はさらに悪化し、ウクライナの被害は拡大する一方となっています。
つまり、トランプ氏の“善意のディール”は、戦争のバランスを崩し、結果的に加害者であるロシアに有利な状況を作り出してしまった――これが櫻井氏の強い懸念なのです。

④ 武器供与の非対称性
プーチン大統領はトランプ前大統領との電話会談の中で、「アメリカはウクライナへの武器供与をやめるべきだ」と主張しました。これは一見、戦争終結に向けた前向きな提案のように思えますが、現実には極めて一方的な要求でした。
なぜなら、ロシア自身は現在も複数の国から積極的な軍事支援を受け続けているからです。たとえば:
- イランからは自爆型ドローン(シャヘド型など)が大量供与され、ロシア軍はこれをウクライナの都市攻撃に使用しています。
- 北朝鮮は砲弾やミサイルだけでなく、兵士まで提供していると報じられています。
- 中国は「民間目的」と称して、実際には軍事転用可能なドローンや電子部品をロシアに輸出しています。
- トルコのような国も、政治的立場をあいまいにしながら軍需関連の協力を行っているケースがあります。
つまり、ロシアは他国からの武器・兵器・兵力の供給を受けながら、一方的にアメリカだけに「武器を送るな」と要求しているわけです。
にもかかわらず、トランプ氏はこの明らかな矛盾を突いて反論することもなく、プーチンの主張に反発すら示しませんでした。

● 解説:
櫻井よしこ氏はこの一連のやり取りを、「外交における基本を欠いた対応」として厳しく批判しています。
国際交渉の場において、相手の矛盾を的確に突くことは交渉術の基本です。相手が不当な要求をしてきたときには、「ではあなたはどうなのか?」と堂々と問い返し、対等な立場を保つ必要があります。
ロシアは明らかに、第三国からの支援を受けることで戦争を継続できている状況にありながら、アメリカにのみ武器供与の停止を求めるのは自己中心的で非対称的な要求です。その理不尽さを指摘し、反論することでこそ、初めて「公平な交渉」が成り立つはずです。
にもかかわらず、トランプ氏はそれをしなかった。櫻井氏はその“反論しない沈黙”こそが、交渉の主導権をロシア側に渡してしまう最大の弱点だと捉えています。
つまり、力による一方的な論理が通ってしまう国際舞台では、「発言しないこと」はすなわち「容認したこと」と見なされる危険すらあるという現実を、私たちは直視すべきだというわけです。

⑤ 戦後のウクライナの安全保障はどう担保するか?
● トランプ案:
トランプ前大統領は、戦争終結後のウクライナの安全を確保する手段として、「アメリカ企業の経済的関与」を提案しました。具体的には、ウクライナに豊富に埋蔵されている鉱物資源――特にレアアースや貴重な金属資源――の開発に、アメリカの企業と技術者が大規模に進出し、現地で経済活動を行うことによって、「アメリカの利益」がその地に生まれるようにするというものです。
この考え方の根底には、「アメリカの資本や人材が関与している場所に対して、ロシアも簡単には手を出せないだろう」という読みがあります。言い換えれば、**経済的な“盾”**を構築することで、軍事的抑止力の代替としようとするものです。

● 櫻井氏の見解:
このトランプ氏の方針について、櫻井よしこ氏は一部の合理性を認めながらも、根本的には不十分であると明確に否定的な立場を取っています。
たしかに、外国資本が入り、国際企業が活動している地域を攻撃することには政治的リスクが伴うため、一定の抑止効果が期待できるのは事実です。しかし、それはあくまで限定的な抑止力に過ぎず、プーチンのように強硬な姿勢を取り続ける独裁者にとっては、そうした“経済的リスク”よりも“軍事的野心”が上回る可能性が十分にあると懸念しています。
さらに櫻井氏は、プーチン政権の過去の行動から、「一度停戦しても、軍事力を再構築して再び侵攻する」というシナリオが十分に現実的だと警告しています。したがって、本当にウクライナの平和と主権を守るためには、NATOやアメリカの軍事的プレゼンス=軍隊の駐留や安全保障条約による後ろ盾が不可欠だというのが彼女の主張です。
特に、ロシアが再び侵略に乗り出すことを考えると、「経済的関与だけに頼った安全保障」では抑止力としては弱すぎるという見方を強調しています。
櫻井氏はこの問題を通して、「戦後の秩序構築においては、理想論ではなく現実的な軍事バランスを重視しなければならない」と訴えています。経済的な関与を含めた多角的な支援は重要だが、それはあくまで軍事的抑止の“補完”であるべきで、代替にはならないという立場です。

⑥ ヨーロッパの変化:アメリカ抜きの「新しい枠組み」へ?
● ドイツ・フランス・イギリスの動き:
ウクライナ戦争の長期化とアメリカの関与の不透明さを背景に、ヨーロッパ諸国がかつてないほどの安全保障上の自立を模索し始めています。特に注目すべきは、ドイツ・フランス・イギリスという欧州の中核国による一連の動きです。
- ドイツは、長年維持してきた「軍事的抑制路線」から大きく転換しました。かつては第二次世界大戦の反省から憲法で軍事活動を厳しく制限していましたが、ウクライナ戦争を受けて、なんと60回以上目となる憲法改正を実施。これにより、軍事費支出の上限枠を撤廃し、事実上“いくらでも軍事費を使える”体制へと移行しました。これはドイツにとって歴史的な決断です。
- フランスは、独自に「欧州の核の傘」を掲げ、自国の核兵器によってヨーロッパ全体を守る意思を明確に表明しました。さらに、軍のウクライナ派遣も検討対象とし、必要に応じて自国の兵士を送り込む覚悟を公言しています。
- イギリスもまた、ウクライナへの積極的な軍事支援を継続しており、戦後の安全保障体制の一端を担う姿勢を鮮明にしています。
こうした動きは、もはやアメリカに頼らず、ヨーロッパ自身の手で地域の安全を守るという強い意志の表れです。

● 背景:
このような姿勢の変化には、NATO内部で実施されたある調査結果が大きな影響を与えました。それは、「核兵器を除いた通常戦力の比較において、NATO諸国はロシア軍よりも圧倒的に優位である」という分析結果です。
この結論は、**「核を使わずともロシアに勝てる」**という新たな自信をNATO諸国に与えました。つまり、これまでロシアの“核の脅し”に対して慎重だったヨーロッパ諸国が、「通常兵力の範囲でなら我々が優位に立てる」という認識に基づき、より積極的にウクライナ支援や防衛態勢の強化に踏み切るようになったのです。
● 解説:
櫻井よしこ氏はこのような一連の流れを、「ヨーロッパがついにアメリカの背中に頼る姿勢をやめ、自らの安全保障を構築し始めた大転換」として高く評価しています。特に、ドイツのような「戦後体制の象徴」ともいえる国が自国の憲法を改正し、軍事大国へと歩み始めたことは、ヨーロッパの本気度を物語っていると見ています。
この流れは、アメリカの国際的リーダーシップが揺らぎ、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」的な外交方針が再び台頭する中で、欧州が“アメリカ抜き”でも動ける新しい安全保障枠組みを模索し始めた証でもあります。
そしてこれは単に地域的な動きにとどまらず、国際秩序そのものに大きな変化をもたらす可能性を秘めています。櫻井氏は、このような「自立するヨーロッパ」の誕生を、戦後体制の転換点として位置づけています。

⑦ 日本と台湾への影響:中国の脅威
● 台湾が落ちれば、経済・安全保障的に日本は大打撃:
櫻井氏は、ウクライナ情勢と並行して、台湾情勢が日本に与える深刻な影響についても警鐘を鳴らしています。もし中国が台湾を武力で占領するような事態になれば、それは単に一国の主権侵害にとどまらず、日本にとっても致命的な経済・安全保障の危機を意味します。
特に問題となるのが、台湾周辺の海上交通路(シーレーン)です。
- 台湾海峡は、日本の輸出入に不可欠なタンカーや貨物船が通る最重要ルート。
- さらに、バシー海峡(台湾とフィリピンの間)や、南シナ海のマラッカ海峡も、日本と東南アジア・中東を結ぶ物流の大動脈です。
これらの海峡が中国の支配下に入れば、日本のタンカーは安全に通過できなくなり、エネルギー供給が大きく制限されることになります。日本は石油の約90%以上を中東に依存しており、その輸送が止まれば経済に与える影響は計り知れません。
たとえば:
- エネルギー価格の高騰(ガソリン代、電気代などの急上昇)
- 原材料・製品の輸入遅延による生産ストップ
- インフレの激化と国民生活の圧迫
といった、国家機能にかかわる深刻な事態が現実味を帯びてきます。

● アメリカの「曖昧戦略」:
これほど重大な影響が懸念されるにもかかわらず、アメリカは長年にわたり「台湾有事の際に軍事介入するかどうかを明言しない」という**“戦略的曖昧さ(Strategic Ambiguity)”**の立場を取ってきました。
この戦略は、表向きには「中国に侵攻させないよう抑止する」と同時に「台湾にも独立を急がせない」ためのバランス策とされてきましたが、実際には次のような不安を生んでいます:
- 中国には「アメリカは出てこないかもしれない」という誤解を与えかねない
- 台湾や日本には「本当に守ってくれるのか?」という不信感が残る
櫻井氏は、このアメリカの不透明な姿勢が、台湾防衛に対する信頼を大きく損ない、結果的に中国の冒険主義を刺激しかねないと懸念しています。
また、日本自身にとっても、「台湾有事は日本有事」であるにもかかわらず、アメリカの本気度が見えない今、日本として独自の備えと意思表示がますます重要になっているというのが彼女の主張です。
櫻井氏は、中国の軍事的台頭がもはや“他人事”ではなく、目前に迫る現実の脅威であることを強調し、日本が地政学的リスクの最前線に立たされている事実にしっかり目を向けるべきだと訴えています。

■ まとめ:いま求められる「現実的な国防」と日本の覚悟
櫻井よしこ氏は、今回の解説を通して一貫して強調しているのは、「日本がもうアメリカだけに安全保障を頼る時代は終わった」という厳しい現実です。
ウクライナ戦争をめぐるアメリカの対応、ヨーロッパ諸国の自立姿勢、そして中国の軍拡と台湾有事の可能性――こうした世界の変化を受け、日本もまた安全保障の在り方を根本から見直す必要に迫られています。
特に、自衛隊が現在の憲法の制約下で「軍隊ではない」という建前に縛られている状況では、迫りくる危機に正面から立ち向かうことができません。抑止力としての実効性を持たせるためには、憲法を改正し、自衛隊を正式な“国防軍”として位置づける必要があると櫻井氏は訴えます。
つまり、今の日本には「理想」だけでなく、「現実」を直視した国防政策が求められています。経済力や国際協調だけではもはや国を守れない時代。中国・ロシア・北朝鮮といった強権国家に囲まれた地政学的現実の中で、日本がどう生き残っていくか――そのために、国としての「覚悟」と「自立」が問われているのです。
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