
日本の土地を外国企業が購入できる理由——なぜ規制できないのか?
近年、海外企業が日本国内の土地を購入することが増え、特に上海電力の土地取得をめぐって多くの国民が懸念を抱いています。しかし、現行の法律では外国企業による土地取得を禁止することはできません。なぜ、日本では外国企業の土地購入を規制できないのでしょうか?

規制が難しい理由
高市早苗氏によると、日本が外国企業や外国人の土地取得を規制できないのは、過去に結んだ国際協定の影響によるものです。その主な要因は以下の通りです。
- WTOの「サービス貿易一般協定(GATS)」と二国間投資協定(BIT) 日本はWTOのGATSや複数の二国間投資協定を締結する際に、土地取得の制限を設けずに合意しました。例えば、中国では外国人による土地購入を禁止していますが、日本はそのような留保措置を取らなかったため、外国人に対して「内国民待遇」の義務を負うことになりました。つまり、日本国内での土地取引において、日本人と外国人を区別して扱うことが国際協定上認められないのです。

WTOのGATS(サービス貿易一般協定)とは?
➤ GATSって何?
GATS(General Agreement on Trade in Services)は、世界貿易機関(WTO)が定めた「サービスの自由な取引」を促進する国際ルールです。簡単に言うと、「各国は自国のサービス市場を外国にも開放しようね」という約束です。
➤ なぜGATSが土地問題に関係するの?
GATSの中には「商業的拠点の設置(モード3)」というルールがあります。これは、外国企業が日本に支店や工場などを作ることを認めるものです。日本はこのルールを守ると決めたので、外国企業が事業目的で土地を取得するのを制限できなくなりました。
例えば、アメリカの企業が日本で会社を作るとき、その会社がオフィスや工場のために土地を買うのを「ダメ」と言えないのです。
➤ 他の国はどうしてるの?
例えば中国は、WTOに加盟するときに「土地取引は自由化しません」と明確に留保しました。つまり、「外国人は中国の土地を買えませんよ」とルールを決めておいたのです。一方、日本はその留保をせずにGATSを結んでしまったため、今から規制をかけるのが難しくなっています。
2. 二国間投資協定(BIT)とは?
➤ BITって何?
BIT(Bilateral Investment Treaty)は、国と国との間で結ばれる投資のルールを定めた協定です。これは、お互いの国の企業が相手国で安心してビジネスできるようにするための約束です。
例えば、日本の企業が海外で工場を作るとき、現地政府が急に「この土地はもう使えません」と取り上げたら困りますよね? そういうリスクを防ぐために「外国企業も自国企業と同じように扱う(内国民待遇)」というルールを設けています。
➤ これが土地規制とどう関係するの?
日本は30カ国以上とBITを結んでいます。その中には、「外国企業も日本企業と同じように土地を取得できる権利がある」という内容が含まれています。そのため、日本が急に「外国企業は土地を買えません」と言ってしまうと、BIT違反になり、相手国から「約束が違う!」と訴えられる可能性があるのです。
3. 他の国はどうしているの?
日本以外の国では、外国人による土地取得を制限するルールを設けているところが多いです。
中国:外国人は土地を「所有」できず、「使用権」しか得られない。
オーストラリア:外国人が土地を購入する場合、政府の審査が必要。
カナダ:2023年から外国人による住宅用不動産の購入を一時禁止。
アメリカ:州ごとに規制があり、一部の州では外国人の土地購入が厳しく制限されている。
これらの国は、WTOやBITの交渉時に「土地は規制対象にします」と明記していたため、問題なく規制できるのです。
2・日本の法律と憲法の制約 日本では国際法が国内法よりも優先されるため、GATSや二国間協定を締結した以上、それに違反する形で土地取得を制限することは難しい状況です。 さらに、憲法が保障する「財産権」の問題もあります。例えば、日本人が不要な土地を外国人に売却したいと考えた場合、政府がそれを禁止すれば「財産権の侵害」として憲法違反となる可能性があります。そのため、土地取得そのものを規制するのではなく、土地の「利用」に焦点を当てた法律が策定されるにとどまりました。

規制の抜け道とその限界
仮に外国人の土地取得を規制する法律を作ったとしても、
- 日本国内でダミー会社を設立し、その名義で土地を購入する
- 外国人が日本国籍を取得した後に土地を購入する
といった方法で規制を回避することが可能です。こうした抜け道を考えると、実効性のある規制を導入するのは難しいと言えます。
今後の対応策
外国資本による土地取得への懸念が高まる中、日本が取るべき対応策として、以下のような取り組みが考えられます。
- WTO協定の見直し 日本がGATSにおいて土地取引の留保を新たに設定し、協定を再締結することが一つの選択肢です。しかし、これは全加盟国の同意が必要であり、実現には相当な時間と労力がかかります。
- 二国間協定の改定 近年、日本は新たに締結する二国間協定において、土地取引の留保を含めるケースが増えています。今後もこうした動きを加速させることで、外国企業による土地買収への歯止めとなる可能性があります。
- 土地利用規制の強化 現在、日本では「重要土地利用規制法」が施行されており、防衛施設や国境付近などの「重要土地」における外国資本の利用を監視・規制する仕組みが整っています。土地取得の規制が難しい中で、少なくとも利用目的を制限することで安全保障上のリスクを低減する必要があります。

上海電力の問題について
上海電力の土地取得に関しては、安全保障上の懸念が指摘されています。上海電力は中国資本の企業であり、日本国内で発電事業を行っています。特に、外国資本がエネルギーインフラに関与することに対し、「万が一、供給を停止された場合に日本のエネルギー安全保障に悪影響を及ぼすのではないか」という懸念が生じています。
例えば、上海電力が所有する発電施設が何らかの理由で停止した場合、その地域の電力供給に影響が出る可能性があります。これにより、企業活動や一般家庭の電力供給が不安定になるリスクが指摘されています。
しかし、経済産業省によると、万が一上海電力の発電が停止した場合でも、他の大手電力会社からの電力供給により、直ちに大きな影響が出ることはないとされています。つまり、電力供給の分散が図られており、一企業の発電停止が日本全体のエネルギー供給に直結することはないという見解です。
ただし、エネルギーインフラを外国企業が管理していることには依然としてリスクがあり、日本政府としても今後の規制強化や監視体制の強化を検討する必要があるでしょう。

まとめ
日本が外国企業による土地取得を規制できない背景には、国際協定や憲法の制約があることが分かりました。今後、日本が安全保障上のリスクを最小限に抑えるためには、WTOや二国間協定の見直し、そして土地利用規制の強化が必要不可欠です。
引き続きこの問題について情報を発信してまいりますので、ご関心のある方はぜひご注目ください。
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