日本の技術が再び世界を驚かせた瞬間があります。それは、「小型なのに大出力」を実現するブラシレスDCモーターの開発です。この技術の先駆けとなったのは、ニデック社です。直流電流を利用し、高速回転と大きな起動トルクを実現するDCモーターには、従来のブラシ付きタイプと、今回取り上げるブラシレスタイプがあります。ブラシレスDCモーターは、消耗品であるブラシや青粒子を使用せず、電子回路を駆使して動作するため、長寿命でメンテナンスフリーという大きな利点を持っています。
この革新的なブラシレスDCモーターは、エアコンや扇風機などの家庭用空調機器から、オフィスのプリンターやコピー機、さらには銀行やコンビニに設置されているATM端末に至るまで、幅広い分野で採用されています。ニデックが世界シェア8割を誇るこのモーター技術は、その用途の広さと性能の高さから、業界内で圧倒的な存在感を放っています。
今日は、このブラシレスDCモーターについて、その特徴やニデック社が果たしている役割、そして私たちの生活にどのように溶け込んでいるのかを探っていきたいと思います。日本発のこの先進技術がいかにして世界を変えているのか、一緒に見ていきましょう。
ニデックについて
日本企業のニデックが、ブラシレスDCモーター市場で目覚ましい実績を上げています。京都市に本社を構えるニデック株式会社(旧社名:日本電産株式会社)は、創業者の長森氏のもと、学歴にとらわれない独自の雇用制度を導入し、人の能力と実力を重視する人事政策を展開してきました。この姿勢は、組織内での大胆な行動を促し、業界内での圧倒的なシェア獲得へとつながっています。
ニデックは、HDDスピンドルモータの世界シェア80%、光ディスクドライブモータで60%、ファンモータで40%という驚異的な数字を誇ります。これらはすべて、精密小型モーターというブラシレス化が進んでいる分野における成果です。特に、自動車業界では、1台の車に100以上のモーターが使用されており、その中でもニデックのブラシレスDCモーターは、高出力、高効率、低騒音、長寿命を実現しています。これは、特に電動車(EV)において、電動駆動部の省エネ化や油圧部の電動化が重要視される中、ニデックの技術が光を放っています。
自動車関連では、パワーステアリング用モーターで世界トップのシェアを獲得しているニデック。EVシフトが加速する現代において、ブラシレスDCモーターの重要性はますます高まっており、ニデックの技術と製品は、これからも多くの分野で活躍の場を広げていくことが期待されます。このように、ニデックはその革新的な技術力と前向きな組織作りで、世界の多様なニーズに応え続けています。
ブラシレスDCモーターの特徴
長寿命
ブラシレスDCモーターは、その名の通り、ブラシがないことが最大の特徴です。従来のDCモーターでは、ブラシとコミュテータ(青龍という表記がありましたが、恐らくコミュテータの誤訳でしょう)との接触によって発生する摩耗が問題となっていました。この摩耗によって生じる粉塵は、モーターの寿命を短くする一因となり、その結果、寿命は通常3,000から4,000時間程度に限られてしまうことが多いのです。特に、摩耗を引き起こすカーボンブラシは消耗品として定期的に交換する必要があり、このメンテナンスがコストや手間を増加させていました。
一方で、ブラシレスDCモーターでは、ブラシとコミュテータによる物理的な接触がなくなったため、このような摩耗が発生しません。その結果、ブラシレスDCモーターの寿命は大幅に延び、約30,000時間とされています。これはブラシ付きのDCモーターと比較して、およそ10倍の寿命を持つことを意味します。長寿命であるため、メンテナンスの手間やコストが削減され、結果として全体の運用コストの低下にも寄与します。
この長寿命は、産業機械や自動車、家電製品など、さまざまな分野での使用において、ブラシレスDCモーターを魅力的な選択肢にしています。高い耐久性と低メンテナンスが求められる用途において、ブラシレスDCモーターはその能力を最大限に発揮することができるのです。
静音
ブラシレスDCモーターのもう一つの大きな特徴は、その静かな運転音です。この低騒音は、ブラシがないことに起因しています。ブラシ付きモーターの場合、電流の切り替えが急激に行われる「ハードスイッチング」により、ローターの回転中にトルクの変動が生じます。このトルクの変動、つまりトルクリップルは、振動や機械的なノイズの原因となります。
しかし、ブラシレスDCモーターでは、電流を巻線間で徐々に移行させることができ、これにより巻線電流の制御が可能になります。この方法は、ローターへ供給されるエネルギーの脈動を抑え、トルクリップルを最小限に減少させます。特にローター速度が低い際に、振動や機械的ノイズを引き起こすことが少なくなります。
このような静かな運転音の特性が、ブラシレスDCモーターを家電製品、オフィス機器(プリンターやコピー機)、そして銀行やコンビニのATM端末など、静かな環境が求められる様々な用途に適した選択肢としています。静かで快適なオフィス環境を支えているのも、このブラシレスDCモーターの功績の一つと言えるでしょう。
小型で高出力
ブラシレスDCモーターが持つ別の大きな特徴は、その小型化と高出力性です。効率の良い動作を実現するためには、同じ出力を得る場合でも小型のモーターの方が望ましいとされています。ブラシレスDCモーターは、その外形サイズを維持しつつも、高効率を追求して設計されています。この高効率化は、電磁損失を抑えるための先進的な鉄心材料の使用や、強力なネオジムマグネットの採用など、選び抜かれた材料によって実現されています。
この特性により、ブラシレスDCモーターはエアコンや換気機のファン駆動、大型空調設備のダンパーアクチュエーター、ATMの搬送ベルトやギア駆動部など、さまざまな高効率が求められる用途に適用されています。また、小型で軽量であるにも関わらず、必要な出力を確保できる点も大きな魅力です。出力の面では、速度制御の安定性もブラシレスDCモーターの特徴的な点です。速度制御装置は、速度指令と速度フィードバック信号を常に比較し、モーターへの加電圧を適切に調整します。これにより、モーターの出力を瞬時に電気的に制御できるため、多様な組み込み製品に柔軟に対応可能です。
さらに、ブラシレスDCモーターは、構造の面でも多様性があります。インナーローター型、アウターローター型の選択、使用するセンサーの種類、あるいはセンサーレスとするかなど、製品に合わせたカスタマイズが可能です。この高い汎用性は、ブラシレスDCモーターをさらに魅力的な選択肢としています。結果として、さまざまなアプリケーションにおいて、その特性を最大限に活かすことができるのです。
ブラシレスDCモーターの経済効果
2035年までに、世界のブラシレスDCモーター市場が現在の約4倍、約40兆円に拡大するという予測は、この技術の将来性と市場の成長可能性を示しています。特に、熱交換器や空調システムなどの分野での広範な利用が見込まれており、これらは食品保管施設や冷蔵設備、加工業界で不可欠な技術となっています。また、アジア太平洋地域がこの市場成長の中心となることが予測されており、この地域でのビジネス拡大が鍵となるでしょう。
ニデックの成績は、この市場の成長と密接に関連しています。令和5年9月の中間連結決算では、売上高と最終利益がともに過去最高を記録しました。特に、電気自動車向けモーターやギアを一体化したEアスクルの構造改革による採算改善が、営業利益を前年同期の約3倍に伸ばしました。
ニデックが市場で成功を収めている背景には、コスト競争力の強さがあります。この競争力は、製造工程の内製化によって支えられています。例えば、Eアスクルに使用される原速機の歯車を自社で加工することにより、コスト削減を実現しています。また、製造工程の内製化は技術的なノウハウを社内に保持するというメリットももたらしています。
EVシフトが進む中で、ニデックのブラシレスDCモーターへの需要はさらに増加すると考えられます。これは、ニデックが持つ技術力、コスト競争力、そして内製化による柔軟性が、市場の要求に応えるための重要な要素となっているからです。ニデックの例からもわかるように、ブラシレスDCモーターは、今後も多様な産業での革新を支え、成長を続ける技術として、ますます重要性を増していくでしょう。
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