教育で遺伝は勝てるのか?

心理学

【教育は遺伝に勝てるか?  行動遺伝学 】

教育と遺伝、この二つの要素は私たちの能力や性格にどのような影響を与えているのでしょうか。安藤寿康さんの著書「教育は遺伝に勝てるか?」を通じて、この永遠のテーマに迫ります。本解説では、以下のポイントに焦点を当てていきます。

  1. 遺伝が全て?あらゆる能力の背後にある遺伝の力
    • 別々に育てられた一卵性双生児と二卵性双生児の比較を通して、遺伝がいかに私たちの性格や能力に影響を与えているのかを探ります。
  2. 親の力とは?親が子供に与えることができるものとその限界
    • 親が子供に与えられる愛情や教育、そして厳しい現実としての遺伝と環境の逆転現象について15歳の節目を例にとって解説します。
  3. 教育環境の選択:子供の未来を形作る
    • 遺伝の影響が強まる時期と、個人の経験が脳に与える影響について掘り下げていきます。

成績や能力が完全に自己責任だと捉えるのは果たして正しいのでしょうか。もちろん個人の努力も重要ですが、遺伝の影響を無視することはできません。このブログを通して、遺伝と教育の関係性について一緒に考えてみましょう。

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別々に育てられた一卵性双生児の類似性

まず、最初に「別々に育てられた一卵性双生児の類似性」に焦点を当てます。遺伝子は個々人で異なりますが、例外的に全く同じ遺伝子を持つ個体が存在します。それが一卵性双生児です。ここで興味深い事例として、アメリカのオハイオ州で起きた出来事を紹介します。シングルマザーに生まれ、児童保護施設に預けられた双子は、生後4週間で一方がシュプリンガー家に引き取られ、さらに2週間後、もう一方がルイス家に引き取られました。名前はそれぞれジムとなりました。

これら二つの家庭は40マイルの距離でしか離れていませんでしたが、どちらの家庭も彼らが双子であることを知りませんでした。しかし、ルイス家ではやがて双子の存在を知り、ジムが5歳の時に再会を果たしました。

一方のジムは39歳になるまで再会を躊躇していましたが、最終的には裁判所を訪れて兄弟の所在を尋ねました。シュプリンガー家は当初、双子の兄弟が亡くなっていると信じていましたが、裁判所から連絡を受けて再会が実現しました。

驚くべきことに、再会した二人のジムは多くの点で類似していました。彼らは数学が好きで、書き取りが嫌いであり、休暇はフロリダの特定の海岸で過ごしていました。また、過去に保安官を務め、趣味が日曜大工であること、息子に「ジェームズ・アラン」という同じ名前をつけていたこと、さらには足を組む時の独特の仕草もそっくりでした。

これらの類似点は能力や性格に留まらず、体格や健康状態にも及んでいました。どちらも39歳で体重が急に10ポンド増加し、同じように首の後ろに強い痛みを感じる症状を持ち、若い時期に心臓病を患っていました。喫煙習慣や視力も同じでした。

この事例から分かるように、一卵性双生児は遺伝的に全く同じであるため、別々に育てられても非常に多くの類似点を持つことがあります。これは、遺伝が人間の能力や性格、体格に強い影響を与えていることを示唆しています。

一卵性双生児と二卵性双生児の似ている部分

一卵性双生児と二卵性双生児の似ている部分を比べてみましょう。一卵性双生児は、全く同じ遺伝子を持っています。つまり、彼らは遺伝子の観点からは完全に同一です。一方で、二卵性双生児は、普通の兄弟姉妹と同じように遺伝子を約50%共有しています。ただし、双子の話には驚くべきものが多いですが、これらは全ての人にあてはまるわけではないことを念頭に置く必要があります。

行動遺伝学者たちは、単に面白い話を集めるだけでなく、しっかりとした心理学のデータを使って研究を進めています。特に注目すべきは、別々に育った一卵性双生児の似ている部分ではなく、同じ家庭で育った一卵性双生児と二卵性双生児の似ている部分を比較することです。これにより、遺伝がどれくらい影響しているのかを判断することができます。

もし一卵性双生児が二卵性双生児よりも明らかに似ているなら、それは遺伝が大きな役割を果たしていると言えます。また、その差が非常に大きい場合は、遺伝がほとんど全てを決定しているとも考えられます。しかし、一卵性双生児と二卵性双生児が同じくらい似ている場合は、共有された環境が影響を与えている可能性があります。一方で、一卵性双生児でさえ似ていない場合は、個々の環境や経験が大きく影響していると考えられます。

例えば、一卵性双生児のアンとベンがいます。彼らは遺伝子が全く同じなので、容姿や性格が非常に似ています。一方で、二卵性双生児のキャリーとデイブは、普通の兄弟姉妹と同じように遺伝子を約50%しか共有していませんので、アンとベンほど似ているわけではありません。

もし、アンとベンが同じ家庭で育ち、似たような教育を受けた場合、彼らの性格や能力が非常に似ていることは、遺伝が大きな影響を持っていることを示しています。一方で、キャリーとデイブが似た環境で育ちながらも性格や能力に大きな違いがある場合は、遺伝よりも環境や個々の経験が影響している可能性があります。

特に知能や学業成績においては、アンとベンが共に高い成績を収めているのに対し、キャリーは優秀だがデイブは苦戦しているといったケースが考えられます。これは遺伝が知能や学業成績に大きく影響していることを示しており、子供自身ではコントロールできない要素が大きいことを意味しています。

多くの人は子供が勉強できない原因をその子供の努力不足や教育方法に求めがちですが、実は遺伝や家庭環境が大きく影響していることが多いのです。したがって、子供がうまくいかないことを全て子供のせいにするのではなく、その背後にある遺伝や環境の影響を理解し、適切なサポートを提供することが重要です。

親にできること

「親にできることは何か」ということについて、具体的に三つの主要なポイントに焦点を当てて解説します。これらのポイントは、1・親が子供に提供できるもの、2・親の努力とその厳しい現実、そして3・遺伝と環境の関係がどのように15歳で逆転するかという点です。

親が子供に与えられるもの

まず、第一のポイント「親が子供に与えられるもの」について詳しく見ていきましょう。子供を授かり、出産することによって、人は生物学的な意味で親となります。この事実は、その子供を産んだ母親と父親が実際に存在する、という明白な生物学的な証拠を提供します。親となる男女は、自分たちの遺伝子を受け継ぐ子供を世に送り出し、その子供の幸福を願いながら、できる限りのことをしてあげたいと思います。一方で、どんなに思っていても行動に移せない親も存在します。

ただし、そもそも子供をこの世に生み出したこと自体が、親が子供のためにできる最も大切なことの一つであると言えます。なぜなら、出産という行為は母体にとって大きなリスクを伴うものであり、それを乗り越えて子供を世に送り出したことは、親の偉大な努力の証拠だからです。

親が子供に与えることができるものとしては、まず基本的な生活条件や環境が挙げられます。これらは人が生きていく上で絶対に必要な要素であり、親が子供に提供することができる最も重要なものの一つです。さらに、教育も非常に重要な要素であり、子供が人間として成長し、社会で生きていくためには欠かせないものです。

親が子供に与えることができる影響

次に、親が子供に与えることができる影響について詳しく考えてみましょう。前の項目で教育の重要性について触れましたが、具体的に親の努力が子供にどれほど影響を与えるのかを見ていきます。例を挙げると、子供に読み聞かせをしたり、様々な音楽を聞かせることで、文化的な環境を提供することができます。また、暴力や恐怖を用いずに、マナーや生活習慣をしっかりと教え、秩序のある日常生活を送らせることも重要です。これらの努力は、子供の遺伝的な素質とは無関係に、学業成績に一定のプラスの影響を与えることが分かっています。

しかし、これらの親の努力による影響力は限定的です。研究によれば、親の努力による影響は約5%程度に過ぎず、遺伝が影響を与える50%には遠く及びません。つまり、親がどれだけ努力しても、子供の遺伝的な素質を大きく変えることは難しいというのが現実です。このことを理解し、受け入れることが重要です。親の努力はもちろん大切ですが、それだけでは子供の能力を根本から変えることは難しいという現実を念頭に置くべきでしょう。

年齢が15歳を境にして遺伝と環境の影響が逆転する

さて、次に、年齢が15歳を境にして遺伝と環境の影響が逆転するという点に焦点を当てて詳しく解説します。15歳よりも若い時期における万引きや不純異性交遊、未成年の飲酒や喫煙など、一般的に悪いとされる行為を、ここでは「若気の至り」と表現し、これらを総称して非行と呼びます。

非行について研究を進めていくと、15歳が一つの分岐点となっていることが分かります。15歳未満では、子供の行動に共有環境、つまり家庭環境や教育が大きく影響しています。一方で、15歳を過ぎると、遺伝の影響が強くなり、共有環境の影響はほとんどなくなっていきます。例えば、友達との同調圧力によって、未成年のうちに喫煙や飲酒を始めるケースがありますが、これは共有環境の影響の一例です。

しかし、年齢を重ねても非行を続ける場合は、その人の遺伝的素質が関与している可能性があります。ただし、重要なのは、遺伝的素質があるからといって必ずしも罪を犯すわけではないということです。遺伝の影響が強いとはいえ、非共有環境もまた重要な役割を果たしており、遺伝的素質があっても、罪を犯すような状況に遭遇しなければ、非行に至らないことが多いのです。

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教育環境を選ぶ

「教育環境を選ぶ」について解説します。このここではでは、「強くなる遺伝の影響」と「個人の経験が脳に与える影響」の二つの重要なポイントを掘り下げて説明します。

強くなる遺伝の影響

遺伝の影響が強くなるという点に焦点を当てて詳細に説明します。子供が成長し、その活動範囲が家庭から学校や地域社会へと広がるにつれて、彼らの行動や知能における個人差に影響を与える共有環境(家庭環境や学校などで共通の影響を受ける環境)の効果は減少していきます。これは行動遺伝学の研究からも確認されており、子供が青年期や成人期に進むにつれて、共有環境の影響が弱まり、遺伝の影響がより強くなるとされています。

遺伝が強く影響する分野として、例えば経済に関する知識や人間関係の築き方などが挙げられます。これらは部分的にはその人の性格や遺伝的な素質に依存していますが、同時に個人の経験や知識によっても形成されていくものです。最初は親を模倣することから学び始めるかもしれませんが、次第に子供自身が世界を広く経験するにつれて、自分自身の感覚や思考を使って物事を理解し、判断するようになります。これによって、子供は両親から受け継いだ遺伝子を独自に組み合わせ、自分自身の遺伝的な素質を最大限に発揮しながら、新たな能力を身につけていくのです。

著者は、このプロセスを通じて、子供が独自の遺伝的な素質を発揮し、個性を形成していくと考えています。それにより、遺伝と環境の相互作用が子供の成長や学びにおいて重要な役割を果たしていると結論付けています。

個人の経験が脳に与える影響

2つ目のポイントでは、個々の経験がどのようにして脳に影響を与えるのかについて解説しています。これまで述べてきたように、子どもは遺伝的な素質を生かしながら能力を身に付けていくわけですが、それと同時に彼らの脳内には、世界についての知識や理解を体系化した独自の内的モデルが形成されています。

この内的モデルは脳の神経ネットワークを通して構築され、個人の感情や思考、行動を導いています。そして、新しい経験をすることで新たな知識が得られ、その内的モデルは常に更新され続けるという循環が生じています。このプロセスに深く関与しているのが、デフォルトモードネットワーク(DMN)と呼ばれる脳のネットワークです。

DMNは、意識的に何かを行っていない状態、例えばぼーっとしている時や寝ている時にも活動しており、個人の経験や記憶を内省し、自己と関連付けて整理する役割を果たしています。DMNは、脳内で他のネットワークとは異なり、神経細胞の密度や表面積に占める遺伝の割合が比較的小さいとされています。これは、遺伝よりも非共有環境、つまり個々の独自の経験が大きく影響を与えていることを意味しています。

具体的には、他の脳領域、例えば前頭葉や帯状皮質などの遺伝率が90%以上であるのに対し、DMNに関わる脳領域の遺伝率は約50%とされています。これは、個人の経験がDMNに関わる脳領域に特に強く影響を与えていることを示しており、経験が脳の構造に直接影響を与える可能性があることを意味しています。

まとめ

今回取り上げた重要なテーマについてまとめてみたいと思います。

まず、私たちの能力は大いに遺伝的要因に左右されるという点を、別々に育てられた一卵性双生児と二卵性双生児を比較することで理解することができました。この事実は、私たちの遺伝子がいかに大きな影響を持っているかを示しています。

次に、「親にできることは何か」というテーマでは、親が子供に与えることができるもの、親の努力の限界、そして遺伝と環境の影響がどのようにして15歳で逆転するかについて詳しく解説しました。これにより、親として子供の成長を支えるために何ができるかについて深く理解することができました。

最後に、「教育環境を選ぶ」というテーマでは、遺伝の影響が強くなるとともに、個人の経験が脳に与える影響について解説しました。この部分では、教育環境が子供の発達にいかに重要な役割を果たしているかを強調しました。

今回紹介した本「教育は遺伝に勝てるか」にはまだ紹介しきれていない部分が多くあります。これは非常におすすめの一冊ですので、興味を持たれた方はぜひ手に取ってみてください。この本を通じて、教育と遺伝の関係についての理解を深め、子供たちの未来をより良いものにする手助けとなることでしょう。

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