フランスの国民議会は12月4日、バルニエ内閣の不信任決議案を賛成多数で可決しました。これにより、9月に発足したばかりの同内閣は総辞職となりました。これは2025年の緊縮型の予算案に対して野党が反発したことが大きく影響しています。不信任案の成立は1962年以来、60年ぶりということです。バルニエ内閣を取り巻く状況がここ数年で悪化しており、フランス国債は売られ、利回りは上昇を続けています。そこで今回のブログでは、現在フランス経済がどんな危機に直面しているのか、そもそもなぜフランスは崩壊に向かっているのかを分かりやすく解説します。
フランス経済は実際に崩壊に向かっているのか?
崩壊と聞くと、何かが突然大きな音を立てて崩れていくようなイメージを持つかもしれません。しかし実際には、経済の崩壊というのは少しずつ進むことが多いです。何年、あるいは何十年もかけて積み重なった課題が解決されないままに積み上がっていき、それが限界に達した時に一気に表に現れる――これが崩壊が起こるということです。ではフランスの場合、崩壊しつつある様子はどこに現れているのでしょうか?
失業率の高さが挙げられます
フランスの失業率は2024年4月から6月にかけて7%を超える水準に達しています。日本の失業率が3%よりも低いことを考えると、フランスの水準がいかに高いかが分かります。若者に限ると事態はもっと深刻です。2024年4月から6月にかけて、15歳から24歳の若者の失業率は17%を超えています。他の先進国と比べても、フランスでは多くの失業が生じています。若者の中には、フランスを出て他の国でより良い仕事を得たいという声も少なくありません。
GDP成長率について
2023年のフランスのGDP成長率は約1.1%と、決して他の先進国と比べて低いわけではありません。しかし大きく経済成長を遂げているとは言えず、企業が新しい雇用を出す余裕を持てない原因にもなっています。
社会の分断も進んでいると言われています
フランスは多文化社会を目指し、アフリカや他のヨーロッパ諸国などから多くの移民を受け入れてきました。しかし、それが逆に大きな課題を生み出しています。移民によって犯罪が増え治安が悪化し、フランス社会全体に不安が広がっているというのです。特に2023年には、パリの郊外で車の運転中に検問を振り切ろうとした移民の17歳の少年が警察官に発砲され死亡したという事件が起こり、移民系の暴動がフランス全土に広がりました。こうした暴動も社会の分断を引き起こしています。
また、2023年の年金制度改革を巡っても、支給年齢の引き上げに対して多くのデモやストライキが起きています。鉄道が大幅に減便したり、街中のゴミ収集が行われずゴミが山積みになったりするなど、経済活動が停滞しました。こうしてマクロン政権に対する国民の不信感が募った結果、政治も不安定な状況となっているのです。
議会選挙の結果と政治的混乱
2024年7月の議会選挙の決戦投票では、与党の議席数が過半数を割り込んでしまいました。予算や重要な法案を議会で通せるのか、政治的な混乱が生じないか、人々の不安が高まっています。失業率の上昇、社会の分断、そして政治の混乱が同時に進むことで、フランス経済はこのままでは崩壊してしまうような状況に追い込まれつつあります。
移民と雇用の問題
フランスでは長年多くの移民が暮らしてきました。この移民の多くは他のヨーロッパ諸国やアフリカからやってきます。彼ら・彼女らはフランスの労働力として重要な役割を果たしてきました。フランス政府の統計によると、2021年のフランスで働く労働者の10人に1人が海外からの移民とされています。特に建設業や清掃業といった分野では、たくさんの移民労働者が働いているとされています。
2024年に開かれたパリオリンピックの準備を進める際にも、多くの移民労働者が働きました。こうした移民の力をなくしては、多くの業務が成り立たず、日常生活もままなりません。しかし、その一方で、こうした移民が増えることで大きな社会的課題が引き起こされています。
まず、雇用を巡る課題が挙げられます。移民労働者は、フランス国内で生まれ育った労働者より低い賃金で働くことが多いです。経営者からすると、低い賃金で働いてくれる労働者はありがたく、移民労働者を優先して雇う会社も出てきます。そのため、フランス人労働者と移民労働者との間で雇用を奪い合うことになるのです。
社会保障と財政負担
フランスは、社会保障や福祉の仕組みを手厚く整えていることで知られています。失業した時の保証、出産や育児で働けない時の手当など、政府からの支援が広く用意されています。しかし、これらの制度を運営するためには莫大な費用がかかり、フランスの財政を圧迫しています。
フランスのGDPに占める社会保障費の割合は約32%となっており、OECD加盟国の中でも高い水準です。これに加えて、フランスも日本と同じように少子高齢化に悩んでいるため、社会保障に関する財政の問題はさらに深刻になっています。
年金改革への反発
2023年には、社会保障による財政負担を軽減するために、政府は年金改革案を打ち出しました。この改革案では、特に年金支給を始める年齢を62歳から64歳に引き上げるという点が注目を集めましたが、国民から激しい反発を受けました。「62歳で年金を受け取れなくなるのはおかしい」「長い間働かせて税金を絞り取るつもりか」などと、フランス全土で大規模なデモやストライキが発生し、経済活動そのものにも悪影響を及ぼしました。
例えば、ストライキによって日本の新幹線にあたる高速鉄道TGVの列車本数が半減し、国外を結ぶユーロスターの運行にも支障が出ました。アルプスなどへの旅行を予定していた100万人のうち、15万人が鉄道を利用できなかったと言われています。
税負担への不満
この社会保障制度改革に対する強い反発の背景には、フランスの労働者たちが抱える不満があります。多くの労働者にとって、現在の税制は非常に重い負担となっています。例えば、フランスで給料を得ると所得税と社会保険料を支払わなければなりません。所得税は所得に応じて0%から45%の税率がかかります。それに加えて、社会保険料も負担しなければいけません。
また、商品やサービスを購入すれば、日本の消費税にあたる付加価値税も支払う必要があります。フランスの付加価値税は標準的な税率が20%と高く、生活必需品にはより低い税率が適用されるものの、日常生活での支出に重い負担がのしかかっています。
こうした状況の中で、年金を受け取れる年齢をさらに引き上げるという提案は、「働いても報われない」という労働者の不満を一層強めました。
企業の負担と財政赤字
年金制度改革は労働者だけでなく、企業側にも大きな影響を与えます。企業も税や社会保障を通じて大きな負担を強いられ、成長を妨げる恐れがあります。2024年現在、フランスの法人税率は25%です。マクロン政権のもとで法人税率は33%から25%に引き下げられ、他の先進国並みの水準となりました。しかし、企業は雇用した労働者の社会保険料も支払わなければならず、こうした負担を含めると実質的なコストはさらに高まります。
このような構造的な負担が国際競争力を削ぎ、新規雇用を抑制したり、企業が海外移転してしまう可能性を高めています。その結果、労働意欲が低下し、財政赤字も年々拡大しています。2023年のフランスの財政赤字はGDPの5.5%に達しました。EU加盟国は財政赤字をGDPの3%以内に抑える必要がありますが、フランスはこの基準を大きく超える赤字を生じさせています。
国債の利回りと信用格付け
このまま赤字が続き政府の借り入れが増えれば、国債の利払いもさらに膨らみ、他の政府支出を削らざるを得ないというリスクが高まります。フランスの10年国債の利回りは2022年以降上昇傾向にあり、2024年は3%前後を推移しています。2024年10月には、格付け会社の1つであるフィッチがフランス国債の格付けを将来的に引き下げる可能性を発表しました。これは、世界のマーケットがフランス財政の健全性に対して懸念を示している証拠と言えます。
政治的な不安定さとその影響
フランス経済を崩壊に向かわせる最後の要因は、政治的な理由です。マクロン大統領は2017年の就任以来、フランス経済を立て直すために数々の改革を進めてきました。労働市場改革や年金改革、法人税の引き下げなど、フランスを投資に適した国としてさらに発展させることを目指してきました。しかし、これらの政策がすべて国民に歓迎されたわけではありません。むしろ、労働者や地方に住む人々を中心に強い反発を招くこともありました。
労働市場改革の影響
例えば、労働市場改革において、マクロン政権は企業が従業員を解雇しやすくするために規制緩和を行いました。これにより雇用の流動性を高め、経済の活性化を目指しましたが、労働者層からは「雇用の不安定化を招くだけだ」と強い批判が上がりました。特に労働組合が強い影響力を持つフランスでは、この政策に反対するストライキが各地で繰り広げられました。
年金改革と支持率低下
また、2023年の年金制度改革もフランス社会に大きな混乱を招きました。年金支給開始年齢を62歳から64歳に引き上げる法案を、マクロン政権は強行採決しました。この動きに対して全国規模の抗議デモが発生し、マクロン大統領の支持率は2023年に30%を下回り、政権発足以来最低水準にまで落ち込みました。
議会選挙と政治の混乱
2024年7月、フランスでは会員議員選挙(日本の衆議院選挙に相当)の決戦投票が行われました。この選挙で、マクロン大統領が率いる与党連合は過半数の議席を得ることができませんでした。さらに、3つの主要勢力がほぼ同じ議席数を得るという結果となりました。
- サハ連合(新人民戦線、NFP)
国民の所得を増やすため、賃金の大幅引き上げや大企業への増税を提案する勢力。 - 極右の国民連合(RN)
移民政策や治安対策の強化を主張。特に外国人の国外退去を妨げるルールの見直しや、燃料税の減税などが特徴。 - 与党連合アンサンブル
マクロン大統領が率いる中道政党ルネサンスを中心とする勢力。過半数を得られず、他勢力との協力が必要な状況。
新内閣は、共和党のミシェル・バルニクジローを首相に据え、与党連合を中心に編成されましたが、サハや極右の支持を得るのは容易ではありません。結果として、政治の混乱が続き、予算や重要な政策が決定しづらい状況が続いています。
政治不安定が経済に与える影響
こうした政治的な不安定さは、企業や投資家にとって大きなリスクとなります。フランスには多くの多国籍企業が拠点を置いており、例えば保険業界のアクサグループ、自動車メーカーのルノー、高級ブランドのルイ・ヴィトンなど、世界的に知られる企業も多く存在します。しかし、NFPが主張する「大企業への税負担強化」が進めば、これらの企業の活動が制約を受ける可能性があります。その結果、フランス経済全体がさらなる停滞に追い込まれるリスクもあります。
崩壊を防ぐために必要なもの
以上のように、フランスの経済は社会の分断、政治的な不安定さ、そして財政問題が絡み合い、深刻な状況にあります。これらの課題を乗り越え、崩壊を防ぎ復活に向かうためには、国民の信頼を回復する政治の安定、移民政策の見直し、財政再建のための制度改革が必要です。
フランス革命と国民性
フランス経済の現状を理解するには、歴史的な背景も見逃せません。例えば、かつて「重税」に苦しめられた平民が起こしたのがフランス革命です。当時の民衆は、王族を国のトップから引きずりおろし、自分たちが主役となる国を作り上げました。この歴史には、現在のフランス国民も大きな誇りを持っています。だからこそ、政治が迷走している時には強く声を上げるという国民性が根付いているのです。
こうした背景を知ることで、現在のフランス社会や世界情勢をより深く理解することができます。
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