バロック絵画ってなに? 代表的な画家を紹介〜ルーベンス・フェルメール・レンブラント・カラヴァッジョ・ベラスケスなど
美術の話題になると、ほとんどの場合「ルネサンス」という言葉が出てきます。多くの方がこの言葉を聞いたことがあるでしょう。
ルネサンスは美術の時代区分の1つで、ある期間にわたる美術の歴史を区切り、その時代に活躍した画家たちの特徴を概説しています。
今回取り上げるのは「バロック」という時代区分で、17世紀にローマを中心に欧州全土に広がった美術様式です。一般の人々がどのような関心を持ち、画家たちがどのような作品を制作したのか、時代背景を踏まえて詳しく見ていきましょう。
バロック絵画の時代背景
当時のキリスト教界では、カトリック教会が圧倒的な力を持っていました。しかし、その権力が強まるにつれて、一部の聖職者が賄賂を行ったり、お金を払えば罪が償われるという教えを広めるようになりました。これに対して異議を唱えたのがマルティン・ルターでした。彼はプロテスタントというキリスト教の宗派を作り、カトリック教会の教えが神の意志に反すると主張し、非難しました。
ルターの言動は、これまでカトリック教を信仰していた人々に衝撃を与え、彼らの心を大いに揺さぶりました。音楽と同じく、宗教改革直後の16世紀初頭には、混乱した市民の感情が反映された不安げで緊張感のある芸術表現が多く見られました。これはマニエリスム様式と呼ばれるものでした。
やがて、絵画表現が落ち着き、宗教改革の混乱を収束させ、市民の心を再びカトリック教会に向けるための説得力のある新しい芸術表現が求められるようになりました。この時期に登場したのが、バロックと呼ばれる美術様式です。
バロックとは?
バロックという言葉は、「ゆがんだ真珠」を意味する「バロッコ」という言葉に由来するという説が有力で、19世紀末からそのように呼ばれるようになりました。バロックの表現様式は、しばしばルネサンスと比較されることが多いです。これは、バロックとルネサンスが対立する表現方法を持っているからです。以下の5つの対立概念を絵画とともに見ていきましょう。
1つ目は、線的表現と絵画的表現です。ルネサンスでは、物体と空間の境界線を強調する線的表現が行われました。一方、バロックでは、空間と物体の境界を色彩や明暗によって曖昧に表現しました。
2つ目は、平面的表現と立体的表現です。ルネサンスでは、科学的に正確な描写が重視されました。例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチは人体解剖を通して正確な肉体の構造を把握し、絵画に反映させました。ルネサンスでは、科学的に正確な人物像を平面的に描きました。一方、バロックでは、画家たちの技術が向上し、科学的正確さだけでなく、物や空間の奥行きを表現する試みが行われました。光や影を巧みに使って、奥行きのある立体的な描写がされました。
3つ目は、閉鎖性と開放性です。ルネサンスでは、一つの作品で完結する完璧な空間構成が目指されました。しかし、バロックでは、作品の外にも連続する世界が広がっているかのように描かれました。例えば、バロック期の画家ピーター・パウル・ルーベンスの作品では、人物が途中で切れていることがありますが、ルネサンス期ではこのような表現は見られませんでした。
4つ目は、多元性と統一性です。ルネサンスでは、いくつかの独立した物体が描かれました。例えば、ラファエロが描いた「聖母子と聖人たち」では、登場人物が一人一人丁寧に描かれ、どこを見るべきか分かりにくい特徴があります。一方バロック期の画家カラヴァッジョが描いた「ロザリオの聖母」では、多くの人物が描かれていますが、光の当たり方によって視線が誘導されます。このように、ルネサンスでは独立したものがいくつも描かれる多元的な特徴があり、バロックでは複数の物体を使って一つのテーマを表す統一的な特徴が見られます。
5つ目は、固有の色彩表現と調和した色彩表現です。ルネサンスでは、描かれる人物の衣服の色が鮮やかでカラフルな印象を受けます。しかし、バロックでは明暗が描かれるものの、衣服の色については登場人物間であまり差がなく、絵に溶け込むような色で描かれています。
これらの対立概念を通して、ルネサンスとバロックが異なる表現方法を持っていることが理解できます。両者の違いを把握することで、美術史をより深く理解することができるでしょう。
バロックの画家たち
バロック期を最初にリードしたのは、イタリアのミラノ出身の画家カラヴァッジョと、イタリアのボローニャ出身のアンニーバレ・カラッチでした。アンニーバレ・カラッチは旅行を通じて多くの場所を訪れ、16世紀の画家の傑作を学び、明暗や色彩を強調した劇的で人々の心に訴える宗教画のスタイルを生み出しました。バロックの前のマニエリスム様式には、謎解きの要素が含まれる作品もありましたが、カラッチは代わりに民衆の共感を呼ぶ聖母マリアや可愛らしい天使などを描きました。
宗教改革が起こる前は、宗教の内容は聖職者からしか学べないものでした。神の教えを学びたいと思ったら教会に行って話を聞くのが当たり前だったため、聖職者たちは神の教えを与える権利を独占していました。しかし、宗教改革を起こしたルターは一般市民に分かる簡単な言葉遣いで聖書を翻訳し、そのわかりやすさから多くの市民が彼についていくようになりました。この影響を受けてカトリック派も民衆に分かりやすい説教の方法を取り入れ、バロック絵画がその一環として普及しました。
そのため、バロック期に描かれた宗教画は、一目でテーマを理解できるものとなっています。アンニーバレ・カラッチはそのような宗教画を多く残し、後世に影響を与えました。カラヴァッジョもドラマチックな宗教画を描き、人々を魅了しました。「聖マタイの召命」では、キリストとペテロが医者マタイのもとに現れ、改心するように命じる場面が描かれています。このように日常に神を取り込んだ絵画を描くことで、民衆は現実に神と出会う可能性を信じるようになりました。
バロック絵画を完成に導いたのは、グエルチーノという画家でした。独学で絵画を学んだ彼は徐々に名声を博し、聖母被昇天では大胆な短縮法を用いて人々を驚かせる作品を生み出しました。短縮法とは、近くのものを大きく、遠くのものを小さく描き、上下から見たときに縦の長さが短く見えるように表現する手法です。彼の作品は、カトリック派の宗教画に大きな影響を与えました。
他にもいくつかのバロック期の画家について見てみましょう。ピーテル・パウル・ルーベンスは、肉感的な肖像画や宗教画で有名であり、彼の作品はバロック様式の特徴である豪華さや感情表現を具現化しています。また、ディエゴ・ベラスケスは、スペインのバロック期を代表する画家であり、彼の作品は明暗や質感の表現に優れています。
バロック絵画は、17世紀と18世紀を通じてヨーロッパ各地で発展し、さまざまな国や地域ごとに独自の特徴を持ちました。フランスではニコラ・プッサンやジャック・ルイ・ダヴィッドが活躍し、オランダではレンブラントやフェルメールが名声を得ました。それぞれの画家は、バロック様式の基本的な特徴を踏襲しつつも、自国の文化や伝統に根ざした作品を創作しました。
バロック期の絵画は、その豪華さや感情表現の力強さが特徴であり、現代においても多くの人々に親しまれています。これらの画家たちの作品を通じて、バロック期の芸術や社会について理解を深めることができます。
ディエゴ・ベラスケスは、「ラス・メニーナス」で有名なスペインの画家で、若いころに宮廷画家になりました。彼は主に肖像画を手がけましたが、同時に、慰めを求める人々や障害を持つ人、道化師を一人の人間として描いた最初の画家でもあります。
当時、こうした人々は貴族にペットのように扱われていましたが、ベラスケスは彼らを独立した肖像画として描き、この姿勢は後の画家、ゴヤやピカソに受け継がれました。
ムリーニョは、「無原罪の御宿り」という作品で知られる画家で、西洋美術を象徴するバラやユリなどを持つ天使たちに支えられる少女の姿の聖母マリアを描いています。この作品は、人物と背景の境界線が曖昧で、全体的に薄い光に包まれたようなぼかし方が特徴です。
「夜警」という作品で有名なレンブラントは、「光の魔術師」という異名を持ち、集団肖像画という新しいスタイルを確立しました。また、「真珠の耳飾りの少女」で知られるフェルメールもバロック期の代表的な画家です。
まとめ
バロック期は、光と影の表現の巧みさが特徴で、美術史において非常に重要な時代です。宗教改革で一時的に信仰が離れていたカトリック教会を支えたのは、バロック様式の美術でした。これらの画家たちが創り出した作品は、今日も多くの人々に感動を与え続けています。
今回使わせてもらった絵画は著作権フリー素材で使えたもので、「フェルメール」「レンブラント」「ルーベンス」がほとんどです。この機会に色々な画家や絵画に触れてみてくださいね!
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