フランシス・ベーコンの「ノヴム・オルガヌム」の全体像をご紹介します。始めに、フランシス・ベーコンの人生と「ノヴム・オルガヌム」の意味についてお話しし、その後、本書の内容を「正しい知識を得る方法」「人間が陥りやすい4つの思い込み」「知は力なりの誤解」という3つのテーマに分けて解説します。
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哲学者フランシス・ベーコン
【名著】ノヴム・オルガヌム|ベーコン 今すぐ捨てるべき、4つの“思い込み”とは? –
今回は、17世紀に活躍したイギリスの哲学者フランシス・ベーコンの名著「ノヴム・オルガヌム」を紹介します。この作品は、近代科学の誕生と発展に大きく貢献した歴史的な著作で、哲学や自然科学に興味を持っている方だけでなく、周囲の意見に流されず、常識にとらわれない柔軟な思考力を身につけたい方にもお勧めです。
フランシス・ベーコンは、イギリス経験主義の祖とも言われ、「知は力なり」という名言で知られる偉人です。しかし、彼の業績の中でも特に重要な「ノヴム・オルガヌム」は、人類の歴史上非常に重要な著作でありながら、あまり世間で認知されていません。その理由は、文章が難しく読みにくいことや、絶版になっているために値段が高騰し、中古本しか市場に出回っていないことが挙げられます。
そこで、今回はこの本の要点や歴史的意義について、わかりやすく解説し、その魅力を少しでも伝えられたらと思います。最初は自分の生活と関連しない話だと感じる方もいるかもしれませんが、徐々に現代を生きる私たちにとって大いに関連するテーマへと繋がっていきますので、ぜひ最後までお楽しみください。
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フランシス・ベーコンは1561年、イギリスの高級官僚の家に生まれました。12歳でケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに入学し、その後法律を学び弁護士資格を取得。23歳で国会議員に選ばれ、政治家や弁護士として活躍しました。52歳で司法長官になり、さらに最高位の大法官にまで上り詰めました。しかし、1621年に汚職の罪で失脚し、晩年は研究と執筆活動に専念しました。「ノヴム・オルガヌム」は、彼が失脚するちょうど1年前に発表された作品です。
「ノヴム・オルガヌム」とは、新しいオルガロンという意味のラテン語です。オルガロンとは、ギリシャの哲学者アリストテレスが書いた論理学に関する著作の総称を指します。つまり、ベーコンはアリストテレス以来の論理学をアップデートしようと試みました。
アリストテレスの学問分類は彼の偉大な功績の一つであり、彼はこれらの学問をまとめて哲学と呼びました。論理学はアリストテレスにとって哲学の一部門ではなく、哲学をするための手段として位置づけられていました。彼は論理学を神の知識を得るために正しく推論をする道具と考えていました。アリストテレスの論理学に関する著作はオルガノンと呼ばれ、オルガノンはギリシャ語で道具を意味します。
フランシス・ベーコンが提案したノヴム・オルガヌムは、新しい道具、すなわち従来よりも正しい推論を導く正しい知識を得るための新しい手段を意味します。彼が活躍した17世紀ヨーロッパは、ケプラーやニュートンといった天才科学者たちが大活躍し、科学革命が進行していた時代でした。
ベーコンの提案した新たな道具は、この革命の流れを加速させ、科学の発展と人類の繁栄に大きく寄与しました。これまでの背景知識を理解していただければ、ノヴム・オルガヌムの中身に入っていく準備が整います。
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まず一つ目のテーマは正しい知識を得る方法についてです。ここでは、ベーコンが提案する新しい知識獲得のアプローチを見ていきましょう。ベーコンが真理の探究には2つの方法があると主張しています。現在使われている方法と、まだ開拓されていない真の方法が存在すると言っています。そして、ベーコンは後者の新しい方法を提案したいと述べています。
では、ベーコンが提案する新しい思考ツール、つまり真の方法とは何でしょうか。彼が提案しているのは、「帰納法」と呼ばれる方法です。
皆さんも学校で習ったり、何度か耳にしたことがあるでしょう。現代人にとっては、帰納法と聞いても驚くことではありませんが、17世紀当時にはこれが大変革新的なアプローチだったのです。
帰納法
さて、帰納法について説明します。帰納法とは、複数の個別事例から一般的な規則や法則を導き出す論理的推論の方法です。
例えば、ゴリラ、オレンジ、レモンといった3つの果物がビタミンを含んでいることが実験で分かったとしましょう。この場合、3つの共通点は果物であるため、「果物にはビタミンが含まれる」という結論が導かれます。帰納法で正しい知識を得るためには、できるだけ多くのサンプルが必要です。
また、ベーコンは、正しい知識は自分の経験や実験に基づいて獲得されるものであると考えていました。つまり、「あの人がこう言っていたから」といった結論の出し方ではなく、自分自身の経験を通して結論を導くべきだということです。このような考え方を、「経験論」と言います。
一方で、経験論に批判的な立場を取る哲学者もいます。それが「合理論」です。
合理論
合理論とは、正しい知識は理性による論理的な推理によって導かれるという考え方のことを指します。フランスの哲学者デカルトは、合理論の代表的人物として知られています。では、なぜ合理論を支持する哲学者たちは経験を信じないのでしょうか?
その一つの理由は、人間の五感が必ずしも信頼できないからです。例えば、私たちが視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚によって得た情報が絶対に正しいとは言い切れないでしょう。誰もが見間違いや聞き間違いを経験したことがあるように、五感は時にエラーを起こします。
さらに、人間は犬のような優れた嗅覚もなく、鳥のように遠くを見る能力も持っていません。このように、不完全な人間の五感を通じて得られた知識もまた不完全であり、必ずしも正しいとは言えないと考えられるのです。
それでは、合理論を支持する哲学者たちはどのように正しい知識を得ようとしていたのでしょうか。それが演繹法です。これはアリストテレスによって提唱された方法で、長年にわたって多くの哲学者が哲学の道具として使ってきました。ベーコンは、この演繹法に代わる新しい手法として、帰納法を提案しました。それでは、演繹法について説明しましょう。
演繹法
演繹法とは、普遍的な命題から理性的に推理を行うことで正しい知識を得ようとする方法です。言葉だけ聞くと難しそうですが、実際にはロジカルシンキングの基本的な考え方です。具体的な例を挙げて説明しましょう。まず、演繹法では普遍的な命題、つまり絶対に間違いがないとされる大前提を設定します。例えば、「人間には寿命がある」という普遍的命題です。次に、個別の例として「Aさんは人間である」という小前提を持ってきます。そうすると、「Aさんには寿命がある」という正しい結論が導かれます。これは三段論法と呼ばれ、今日のビジネスシーンでも頻繁に使用されています。
確かに、歴史ある手法である演繹法は使い勝手が良さそうですが、ベーコンはこの方法に問題があると感じていました。ここでは彼が演繹法に対して批判的に見ていたポイントを2つ挙げてみます。まず1つ目は、大前提が間違っていた場合、結論も間違ってしまうという点です。
例えば、「人間には寿命がある」という普遍的命題が、不老不死の技術が開発されれば変わってしまいます。このように、大前提が覆されたり、設定自体が誤ったりする可能性もあるため、演繹法は真理の探究において完璧なツールとは言えないのです。
そしてもうひとつの問題点は、イノベーションを起こしにくいという点です。要するに、先ほどの三段論法のように、演繹法は議論をする際には便利なのですが、既知の前提から推論を展開していくため、新たな発見や技術の開発にはつながりにくい弱点があるのです。
このような演繹法の欠陥に気付いたベーコンは、人類に繁栄をもたらす偉大な発見や技術革新を起こすためには、従来の演繹法に頼らず、何度も実験を重ね、トライ&エラーを繰り返し、新たな知識を少しずつ獲得していく方法を取るべきだと主張しました。彼は、このようなアプローチが人類全体にプラスに働くはずだと考えていました。
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現在では、実験という行為は科学の基本中の基本となっていますが、それは古代から当たり前のように存在していたわけではありません。このように、ベーコンという人物が1000年以上続いてきた思考の常識を疑うことによって、その意義が確立されたのです。
ただし、先ほど述べたように、人間の五感は完璧ではありません。正しい知識を得ようとしても、自分の経験や実験を通して集めた情報自体が誤っていれば、当然間違った結論が導かれてしまいます。ベーコンは、この問題をどのように解決しようと考えたのでしょうか。
先に答えから言ってしまいますが、ベーコンが提案した解決策は、4つの思い込みを捨てることです。これが彼が帰納法の弱点を補うために出した解決策であり、今回の説明で最も重要なポイントになります。
それでは、人間が陥りやすい4つの思い込みについて説明しましょう。ベーコンが『ノヴム・オルガヌム』で提唱したイドラと呼ばれる概念は、ラテン語で幻影や偶像を意味しています。具体的には、人間が陥りやすい偏見や思い込みのことを指しており、種族のイドラ、洞窟のイドラ、市場のイドラ、劇場のイドラの全部で4種類あります。ベーコンは、実験や観察には先入観や偏見がつきものだと考えたため、それを取り除くためにこの理論を作り上げました。
それでは、これらのイドラを順番に見ていきましょう。
種族のイドラ
1つ目は種族のイドラです。これは、人間という種族に共通に備わった感覚による偏見のことを指しています。目の錯覚がわかりやすい例です。スライド左側に示されているのは、ミュラー・リヤー錯視と呼ばれる最もよく知られた錯視の一つで、おそらく皆さんもご存知かもしれません。これらは同じ長さの直線ですが、両端の矢印の向きが逆になるだけで、不思議と長さが違って見えてしまいます。この例からわかるように、人間の感覚は完璧ではなく、時に思い違いや見間違いをしてしまうことがあります。しかし、日々の生活の中で、私たちはこの事実にあまり意識を向けていません。そのため、「目で見たのだから間違いない」「耳で直接聞いたのだから確かだ」と、自分の五感を通して得た情報を絶対的な真実だと強く思い込んでしまいます。ですから、人と接するときや世界を見つめるときも、歪んだ捉え方をしている可能性があることを常に頭の片隅に置いておく必要があります。
洞窟のイドラ
2つ目は洞窟のイドラです。これは、個人的な境遇や体験からくる思い込みや偏見のことを指しています。例えば、「最近の若者は根性がない」「会社は3年以上勤めなければダメ」といった意見は、皆さんもこれまで何度も聞いたことがあるでしょう。しかし、実際には、根性のある若者もたくさんおり、会社を3年以内に辞めて人生がうまくいっている人も多くいます。ですから、これらの意見は、誰にとっても正しい知識ではなく、誰かの個人的な境遇や体験から導かれた偏見と言えます。
ベーコンは、人間が洞窟のように狭い世界で生き、その経験だけを頼りにしていると、考え方も狭くなっていくことを見抜きました。そして、この問題を洞窟のイドラと名付けました。
市場のイドラ
3つ目は市場のイドラです。これは、うわさ話や聞き間違いなどによる偏見のことを指します。多くの人が集まり、様々な噂話が飛び交う市場の様子からこの名前がつけられています。ベーコンは、市場のイドラこそが最も厄介なものであり、正しい知識を得る際には特に注意が必要だと述べています。
現代人にとっては、インターネットの掲示板やSNSの書き込み、テレビや新聞などのマスメディアから発信されるニュース、学校や会社の同僚から流れてくる噂話などが、市場のイドラに該当します。これらの情報を鵜呑みにせず、真実であるかどうかを慎重に判断することが大切です。特に、人間は偽の情報でも何度も繰り返し聞くと、それを真実だと錯覚する傾向があるとされています。そのため、インターネットが身近な現代人ほど、市場のイドラに対して警戒心を持っておくことが重要です。
劇場のイドラ
最後に、4つ目のイドラは「劇場のイドラ」です。これは、有名な人物や社会的地位の高い人物の言葉を真実と見なし、盲信してしまうことによる偏見を指します。劇場で行われる手品や芝居が観客に本物と思わせる現象にちなんで名付けられました。
人類の歴史を振り返ると、権威ある人や組織が語る嘘や偽情報であっても、それが真実味を帯びて広まり、多くの人が盲目的に信じる事例が数多く見られます。例えば、中世において圧倒的な権威を持っていたカトリック教会が唱えた地動説は、何百年もの間批判を受けず、世界の常識として人々に信じられていました。しかし、後にコペルニクス、ケプラー、ガリレオなどの科学者たちが唱えた地動説によって、それは覆されました。
また、身近な例として、学校の先生や親が言っていること、テレビやインターネットに出てくる著名人やコメンテーターが言っていることも、今は真実に聞こえても、実際には後に誤りである可能性が十分あります。
ベーコンは、自分の感覚を絶対的なものと信じ込むこと、個人的な境遇や体験に基づく狭い考えに縛られること、他人の噂話を鵜呑みにすること、そして有名人や社会的地位の高い人の言葉を盲信することは、正しい知識の獲得を阻害するものだと結論付けました。この考え方は、選択の連続である人生においても十分に応用が利くため、取り返しのつかない失敗や大きな損を避けるためにも、ぜひ覚えておいていただきたいと思います。以上が4つのイドラについての説明です。
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「知は力なり」について、詳しく説明したいと思います。
「知は力なり」とはフランシス・ベーコンの有名な名言ですが、実際にどのような意味で使われたのか、またどのような文脈で使用されたのかはあまり知られていません。多くの人は「知識があればあるほど、それが人生を切り開く力になる」という自己啓発的な文脈で捉えているかもしれませんが、実際のところはどうでしょうか。この言葉は『ノヴム・オルガヌム』の第一節に記されています。
「人間の知識と力は一体である。原因が知られなければ結果は生じないからである。自然は征服することによって服従させられるのであって、自然の探究において原因と認められる者が、作業においては結果を生み出す原則の役割を果たすからである。」
この文章はやや難解ですが、重要なポイントは「人間の知識と力は一体である」という部分です。ここで言う「知識」とは、自分の経験や実験に基づいて得た正しい知識、つまり科学的知識のことを指しています。一方で、「力」とは自然を支配する力のことを意味しています。
つまり、ベーコンは科学的知識によって自然を支配できると主張しているのです。ここでの「自然を支配する」とは、森林伐採や自然破壊のようなことではなく、この世界にある様々な自然法則を解明することを意味しています。
例えば、ニュートンが発見した万有引力の法則によって、月が空から落ちないのに対して、リンゴが木から落ちる理由など、自然界の謎が解明されました。この法則は現代の宇宙開発にも応用されています。
つまり、ベーコンは実験の積み重ねによって得た科学的知識こそが自然法則を解明する力であり、それは人類に大きな進歩と豊かさをもたらすはずだと確信していたのです。
現代人は、自動車に乗ったり、スマートフォンを使ったり、充実した医療を受けたりと、さまざまな科学技術の恩恵を受けています。しかし、これらの技術の源流をたどると、本日ご紹介したフランシス・ベーコンの思想に行き着くことができます。
ベーコンは、科学的知識を得ることで、人類が自然法則を理解し、それを利用してより豊かな生活を送ることができると考えました。この考え方は、現代の科学技術がどのように進歩し、私たちの生活にどのような影響を与えているかを理解する上で、非常に重要です。
「知は力なり」という言葉は、単に知識があれば力になるという自己啓発的な意味ではなく、科学的知識を得ることによって自然法則を解明し、それを活用してより良い未来を築くことができるという、より深い意味を持っています。
テックアカデミー無料メンター相談まとめ
私たち現代人にとって、ベーコンの思想は、科学技術の発展とそれがもたらす影響を理解し、より良い未来を築くために重要な知識を得るための指針となります。そのため、「知は力なり」という言葉は、科学的知識の価値を再認識し、それを活用して未来を切り開く力に変えることができるという、大切なメッセージを私たちに伝えてくれるのです。
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