
私たちは、どんな物語を信じて生きているのか──そして、AIはそれをどう書き換えるのか?
歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが著した『NEXUS 情報の人類史』は、人類が「情報」と「物語」によって築き上げてきた文明の成り立ちを明かすと同時に、AIという新たな知性の登場が社会に与える衝撃を鋭く描き出す一冊です。
情報は人をつなぎ、動かす力を持つ。しかし、現代の私たちはフェイクと真実の洪水の中で見失いかけている。そして今、AIはただの「道具」ではなく、自律的な意思決定を行い、人類の運命にすら干渉し始めている──。
この本は、情報に支配される時代をどう生きるか、そして人間の価値とは何かを深く問いかけてきます。ハラリの鋭い洞察と警鐘に耳を傾けてみませんか?
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🔹情報とは何か、そしてAI時代の人間の役割とは?
この本は、人類の歴史を「情報」の観点から読み解きながら、これから訪れるAIの時代に、人間社会がどのように変わるのかを深く考察する内容です。
上巻では「人間がいかにして情報や物語を活用し、文明を築いてきたか」を中心に描かれ、下巻では「AIの進化によって生まれるリスクと、それに人間はどう立ち向かうべきか」が語られています。
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✅ 上巻のポイント:情報と物語が人類をつなげた
◉ 人類の進化の鍵は「物語」だった
人間はなぜ他の動物たちよりも優位に立ち、巨大な文明を築くことができたのでしょうか?
その理由は、「物語(ストーリー)」を信じ、それを多くの人と共有できる能力にあります。
たとえば、「国家」や「宗教」「お金」などは、現実に目に見えるわけではありませんが、多くの人がそれを信じることで、社会が成り立っています。
こうした「フィクション(=作られた物語)」を共有する力が、人類に強い協力関係と大規模な社会を可能にしました。
◉ 文字と印刷が「物語の力」を拡大させた
物語を多くの人と共有する力は、書く技術(文字)や印刷の発明によって一気に強まりました。
たとえば、聖書という一つの物語を多くの人に伝えることができたことで、キリスト教は世界中に広がりました。
つまり、情報を記録し、拡散する手段ができたことで、人間同士のつながりは飛躍的に広がっていったのです。
◉ 情報が多いほど、真実に近づけるとは限らない
情報が広がることは良い面ばかりではありません。
歴史を見れば、間違った情報(デマ)によって人々が動かされ、大きな悲劇が起きた例も多くあります。
たとえば、中世ヨーロッパの「魔女狩り」は、誤った噂や迷信が大量に広まったことにより、多くの無実の人が処刑された悲劇です。
現代でも、SNSなどを通じてフェイクニュースや陰謀論が急速に広がっています。
情報の量が増えても、それが正しいとは限らず、本当のことを見抜く力がますます重要になってきているのです。
このように、上巻では「人類は物語によって社会を築き、情報によってつながってきたが、その力には危険も潜んでいる」ということが語られています。
下巻では、この「情報の力」をAIが握るようになったとき、人類にどんな未来が訪れるのか?という問題が深く掘り下げられていきます。

✅ 下巻のテーマ:AI時代に人類が直面する本当の危機とは?
この下巻では、AIの進化によって人類がどのようなリスクにさらされるのかを、哲学的かつ実践的に問いかけています。
AIはもはや「便利なツール」ではなく、人類の未来を左右する“新しい知性”であり、私たちの価値観や社会構造に深刻な影響を与えかねない存在です。
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◉ AIは、もはや「道具」ではない
従来の道具や機械は、すべて人間の指示なしには動けないものでした。
しかし、AI(人工知能)は違います。
現代のAIは、学習し、判断し、自ら新しいアイデアを生み出す能力を持っています。
これは、人間以外で初めて「知性」を獲得した存在ともいえるのです。
つまり、AIは「ドライバー付きの車」ではなく、自ら運転する“新しい生命体”のようなもの。
このことが、今後の人間社会に深刻な影響を及ぼすと筆者は警告します。
◉ AIがもたらす3つの危機
(1) 言葉と物語で人間を操る力
AIは、人間の感情や心理を読み取り、それに訴えるような言葉や物語を創作することができます。
これは広告だけでなく、政治や宗教にも影響を及ぼし、プロパガンダ(大衆扇動)や世論操作が容易になります。
その結果、人々は知らぬ間にAIによって意見や行動を誘導されるようになり、民主主義の基盤そのものが揺らぐ可能性があるのです。
(2) 人間には理解できない判断
AIは、日々すさまじいスピードで進化しています。
その進化がある段階に達すると、人間にはその判断や思考の根拠がまったく理解できなくなる、いわゆる**「シンギュラリティ(技術的特異点)」**の問題が現実のものになります。
つまり、AIが「なぜその決定をしたのか」がわからず、私たちがその判断を検証・制御できなくなる危険性があるのです。
(3) 感情のない支配者となる恐れ
AIには、共感や道徳、罪悪感といった人間特有の「感情」がありません。
そのため、完全に合理的で効率重視の判断を下します。
これは一見正しそうに見えても、人間の尊厳や幸福を無視した非人道的な決断につながる恐れがあります。
たとえば、利益のために大量解雇を実行したり、社会的に弱い人々を無視・排除するような政策を支持したりすることもありえます。
◉ 実例:Facebookのアルゴリズムとロヒンギャ問題
このようなAIの危険性は、すでに現実化しています。
たとえば、Facebookの投稿アルゴリズムが、ミャンマーでの少数民族ロヒンギャへの憎悪や暴力を拡散させた事件がありました。
これは、**「人間にとって有害な意図がなくても、AIの判断が結果的に悲劇を引き起こす」**ということを証明しています。

◉ 社会から取り残される人々「無用者階級」の出現
AIが労働や知的作業まで代替するようになると、多くの仕事が消えていきます。
特に「学んでも追いつけない速さ」でAIが成長するため、多くの人が**社会にとって役に立たないとみなされる存在=“無用者階級”**に追いやられてしまう危険があります。
これは、経済的な貧困だけでなく、「自分の存在意義を見失う」という深刻な精神的ダメージにもつながります。
人間が「何のために生きるのか?」という根本的な問いに直面する時代が、すぐそこまで来ているのです。
この下巻では、AIの進化によって人類が直面する3つの深刻な危機と、それがもたらす社会の大転換について、鋭く分析されています。
便利さの裏にある危険に目を向け、私たちは今こそ「人間らしさとは何か」を問い直す必要があるのです。

✅ ハラリの提言:AIを制御するために人類が今すぐやるべきこと
AIの急速な発展は、もはや一企業や一国だけではコントロールできない段階に入りつつあります。
この本の著者ユヴァル・ノア・ハラリは、AIがもたらす社会的混乱や倫理的問題を避けるために、今こそ「世界規模でのルール作りと協調」が必要だと強く訴えています。
彼の提言は、現実的でありながらも、私たちが見落としがちな“根本的な問題”に焦点を当てています。
① AIが自分の正体を名乗る「自己開示の義務化」
近年、人間と区別がつかないほど自然に話すAIが登場し、SNSやチャット、音声通話などで「これは人間?それともAI?」と判断がつかないケースが急増しています。
ハラリは、AIが作った情報であることを明示するルールを設けるべきだと提言しています。
たとえば、AIが書いた記事や、AIが登場する動画・音声には「これはAIによる生成物です」と明確に表示することが求められるということです。
そうすることで、社会の透明性と信頼を守ることができるとされています。
② 意思決定のプロセスを「見える化」し、責任の所在を明確に
AIは、ときに人間の人生を左右する重大な判断(例:医療診断、採用選考、犯罪予測など)を行います。
しかし、その判断が「なぜ・どうして」導かれたのかがブラックボックスになっていることが多く、問題が起きても誰が責任を取るのか不明確です。
ハラリは次の2点を提言します:
- AIの判断根拠を人間が理解・検証できるようにする
- 問題が発生した場合、開発者や企業が責任を負う仕組みを整える
つまり、「AIが勝手にやった」では済まされないよう、透明性と説明責任を社会全体で制度化する必要があるのです。
③ 国家間の協力による国際的なルール作り
AIはインターネットを通じて世界中に影響を与える存在であり、どこか1国だけが規制しても意味がないのが現実です。
たとえば、ある国で禁止されているAI技術が、他国では野放しになっている場合、危険な技術が簡単に流通し、世界中に影響を与える可能性があります。
そこでハラリは、次のような国際的枠組みの構築を提唱しています:
- 各国が足並みをそろえたAI規制の国際協定
- 国連やG7などの国際機関を通じた監視・運用体制
- 政府・企業・市民社会が共同で関与するガバナンス機構
これは、気候変動や核兵器と同じく、人類全体の生存に関わる課題だという意識を持つべきだという警鐘でもあります。
AIと共存するために、いま必要なこと
ハラリは、「AIそのものが悪いのではない。問題はそれを使う“人間の社会構造”にある」と語ります。
だからこそ、AIの力を人類のために活かすには、技術よりも倫理・制度・協調が不可欠なのです。
これらの提言は、遠い未来の話ではありません。
すでに私たちの生活の中で起き始めている現実であり、“今”こそ考え、動くべき時だと、ハラリは警告しています。
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🧠 最終まとめ:AI時代に問われる「人類の知と信」
人類がここまで発展してきたのは、「情報」を扱い、「物語」を共有する能力があったからです。
宗教や国家、貨幣といった“フィクション”を信じ、見知らぬ者同士が協力する力を築いてきました。
しかし今、その情報空間に人間以外の知性=AIが登場し、強大な影響力を持ち始めています。
AIは膨大な情報を処理し、人間の心に届く“物語”すら生み出せる存在になりました。
この新たな知性が人類に利益をもたらすのか、それとも分断と混乱を加速させるのか。
それは、私たちがどのようにAIを扱い、制御し、共存していくかにかかっています。
つまり、未来に向けて私たちが本当に問うべきことは──
「どの情報を信じるのか?」
「AIとどう共に生きるのか?」
という、非常に人間的で、本質的な問いなのです。
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