
なぜロシアは「先進国」と呼ばれないのか?
軍事力世界2位の大国が抱える“矛盾”とは
「国連安保理の常任理事国」「世界第2位の軍事力」「世界最大の国土」──こうした肩書きを聞くと、多くの人はロシアを“世界有数の先進国”だとイメージするかもしれません。
しかし、国際的な定義や各種ランキングを見ると、ロシアは**「発展途上国」に分類されるケースも少なくありません**。
一体なぜ、あれだけの国力を誇るロシアが“先進国”とは呼ばれないのでしょうか?
そこには、**見かけの数値では見えない「生活水準・政治体制・産業構造の歪み」**が潜んでいます。
本記事では、
- OECDやIMFによる「先進国」の定義
- ロシアがその基準に届かない理由
- 歴史的背景や経済の構造的問題
- そして今後ロシアが進むべき道
を、わかりやすく解説していきます。
ニュースでは語られない、“ロシアの素顔”に迫ってみましょう。

1. ロシアって「先進国」じゃないの?
ロシアといえば、世界でも有数の大国です。
たとえば…
- 軍事力はアメリカに次ぐ世界第2位
- 国連でも特別な力を持つ「安全保障理事会の常任理事国」
といった具合に、国際的には大きな影響力を持っています。
でも――
意外なことに、「先進国」とは見なされていないんです。
なぜかというと、OECDやIMFなどの国際機関の基準では、ロシアは「発展途上国(発展の途中にある国)」として扱われているからです。

2. 「先進国」とは何か?~OECDと世界銀行の見方~
🏛 OECDの基準
OECD(経済協力開発機構)は、「先進国クラブ」とも呼ばれる国際組織です。
この組織に入っている国々は、経済的に豊かで、他の国を支援する立場にあります。
- 日本、アメリカ、ドイツなどは加盟。
- ロシアは加盟していません。
- ただし、ロシアは「支援を受ける側(被援助国)」としても登録されていません。
つまりロシアは、支援する側でも支援される側でもない中途半端なポジションなんです。
💰 世界銀行の見方:GNIで判断
世界銀行では、「1人当たりのGNI(国民総所得)」で国の経済レベルを判断しています。
GNIが高い国=「高所得国」
GNIが低い国=「低所得国」や「中所得国」とされます。
ロシアはこれまで「上位中所得国」でしたが、2025年には「高所得国」に格上げされる予定です。
でも、注意が必要です。
この数字が上がった理由は…
- 戦争による人口の減少(=1人あたりの数字が上がる)
- 物価の上昇(インフレ)
- 軍事関連産業が一時的に活発になったこと
といった**“特殊な事情”によるもの**なんです。
つまり、見かけの数字は良くなっていても、国全体の生活水準が本当に上がったとは言えないということです。

3. IMFの基準ではロシアはどう見られている?
IMF(国際通貨基金)という国際機関も、国のレベルを判断する基準を持っています。
OECDが「経済中心」で判断するのに対し、IMFはもっと広い視点から判断しています。
✅ IMFが大事にしているポイント
IMFでは、次のような項目がとても重要とされています:
- 教育のレベル
- 平均寿命(どれくらい長く健康に生きられるか)
- 政治体制が民主的かどうか(国民の自由があるか)
- 経済の安定性
つまり、「国民の暮らしぶりや自由」が重要な基準になるのです。
📉 ロシアの評価は?
この基準で見ると、ロシアは**「発展途上国」と見なされます**。その理由は以下のとおりです。
❌ 政治が民主的ではない
- ロシアでは選挙が行われていますが、選挙の不正疑惑が多い。
- プーチン大統領に対抗できる候補者がほとんど出てこない。
- 実質的には「独裁的な体制」に近い状態になっています。
❌ 自由や人権が制限されている
- 報道や言論の自由が限られている。
- 政府に批判的な人は拘束されたり、メディアが閉鎖されたりする。
❌ 平均寿命が短い
- ロシアの男性の平均寿命は約70歳(世界115位)
- 女性は約79歳(世界88位) → 他の先進国(男性80歳以上・女性85歳以上)と比べて約10年も短い。
🎯 結論としてはIMFの基準でもロシアは「先進国」ではない
IMFの見方では、国民の暮らしの質、政治の自由度、健康状態などが先進国の条件。
そのため、ロシアはこれらの基準を満たしておらず、「発展途上国」とされているのです。

4. ロシアはなぜ「軍事大国」なの?
ロシアは「経済的には発展途上国」と言われる一方で、軍事力では世界トップクラスです。
🌍 軍事ランキング世界2位!
- 各国の軍事力を比べた「グローバル・ファイアーパワー」ランキング(2024年)では、ロシアはアメリカに次ぐ2位。
- たくさんの戦車・戦闘機・ミサイル・核兵器を持ち、世界中で影響力を持つ軍事大国です。
🧭 なぜそんなに軍事に力を入れているの?
ロシアが軍事力を強めてきたのには、地理と歴史の理由があります。
🗺 世界一広い国土を守るため
- ロシアは世界で最も面積が広い国で、たくさんの国と国境を接しています。
- 内部にもいろんな民族や文化があり、まとめるのが難しい。
- だから、中央の政府が強い軍隊で国を支える必要があったんです。
⚔ 過去に何度も侵略された
- フランス(ナポレオン時代)やドイツ(ナチス)など、他国から何度も攻められた歴史があります。
- 内戦や民族の対立(例:チェチェン紛争)でも、軍の力で抑え込んできました。
- 中国とも国境争いや軍事衝突を経験しています。
➡️ こうした背景から、ロシアでは「軍事力こそ国を守る力」という考え方が強くなってきたのです。
🏗 軍隊づくりの歴史は古い
- 本格的な軍隊を作り始めたのは1700年ごろ(ピョートル大帝の時代)。
- この軍事力によって、ヨーロッパの強国の仲間入りを果たしました。
- でもその一方で、ロシアは西ヨーロッパよりも経済発展が遅れていたんです。
🚂 産業革命にも出遅れた
- イギリスで産業革命(工場や機械化)が起きたのは1700年代後半。
- ロシアがそれに追いついたのは100年近く後。
- 経済や産業が育つよりも先に、軍事にリソース(お金・人・時間)を集中していたのです。
🧠 まとめ:軍事力はすごいけれど
ロシアは、
- 広大な国土
- 歴史的な脅威(侵略や内乱)
- 経済より軍事を優先する体質
といった理由で、世界有数の軍事力を築いてきました。
でもその反面、経済や市民の生活・自由の面では後れを取ってしまったのです。

5. 経済の評価:GDPは高いけど中身が弱い?
ロシアはGDP(国内総生産)で見ると、世界第11位に入っています。
これはかなり上位で、「お金をたくさん稼いでいる国」と言えそうに見えます。
でも――実はこの数字だけではロシア経済の“本当の強さ”はわかりません。
💡 なぜなら…
- GDPの約70%が石油や天然ガスといった資源に頼っているんです。
- 食品、工業製品、家電など、他の産業はあまり発達していません。
🛬 外国からの輸入に頼っている
- ロシアでは「ロシア製よりも外国製のほうが品質が良い」という意識が根強い。
- そのため、自国の製品よりも外国製品が好まれる=輸入が多いという状態になっています。
➡️ 結果として、経済の中身はとても偏っていて、資源価格が下がるとすぐに経済が苦しくなるという弱点があります。

6. ソ連崩壊後、ロシアの経済はどう変わった?
ロシアの経済は、過去30年で大きく揺れ動いてきました。
ここではその変化を、3つの時期に分けて見てみましょう。
🔻① 危機の10年(1991〜1999年ごろ)
- 1991年、ソビエト連邦(ソ連)が崩壊し、ロシア連邦が誕生。
- しかし、それまでの共産主義経済(国がすべて決める方式)から、自由経済に一気に切り替えたため、大混乱に。
- 経済は止まり、GDPは3分の1まで落ち込み、平均寿命も大幅に下がりました。
- 医療や公共サービスが崩壊し、自殺や犯罪も増加。
🚀② 繁栄の10年(1999〜2010年)
- プーチン大統領が就任し、政権を安定化。
- ちょうど同じ時期に、世界的に原油価格が高騰!
- ロシアの主力輸出品である石油や天然ガスの価格が上がり、経済が急成長。
- この時期、国民の生活も少しずつ豊かになり、社会の安定も進んだ。
- この成功が、プーチン大統領の支持を高めた大きな理由です。
🛑③ 停滞の10年(2011〜2020年)
- 今度は原油価格が下落し、ロシア経済の勢いが止まりました。
- さらに2014年、ロシアがウクライナのクリミア半島を一方的に併合。
- これにより、アメリカやEUなどから厳しい経済制裁を受け、外国からの投資や輸入が減少。
- ロシアは「資源に頼らない経済」にしようと努力したけれど、実際にはあまりうまくいかず。
ポイントとしては
- ロシアの経済は「数字は大きく見えるけれど、中身が偏っていて不安定」。
- ソ連崩壊後は、危機 → 成長 → 停滞というサイクルを経験。
- 原油価格に大きく左右される構造から、いまだに脱却できていないのが現実です。

7. 現在とこれからの課題
ロシアはここ最近、国内の産業を育てようと努力してきました。
たとえば、食品や日用品など、以前は海外からの輸入に頼っていたものを、国産品でまかなえるようにする動きが強まりました。
📉 でも現実は…
- 経済制裁で外国製品が入りにくくなったときは、仕方なく国産品が増えた。
- でも、制裁が少しゆるくなると、すぐに輸入に戻る傾向があります。 → つまり、「国内産業が本当に強くなった」とは言いきれません。
☺ 社会の安定には成功した面もある
- 格差(お金持ちと貧しい人の差)が縮まり、
- 自殺率や犯罪率も減り、
- 貧困層も少しずつ減少してきました。
でもこれは、「繁栄の10年間」で得たお金を使って、なんとか持ちこたえているだけという見方もあります。
➡️ この状態をずっと続けられるのか?というと、やや不安が残るというのが現状です。

8. 最大の問題:政治体制の硬直
ロシアが本当に先進国になれない理由のひとつが、政治の仕組みにあります。
⚖ 政治の仕組みはどうなってる?
- 見た目は「選挙」や「議会」があるけれど、
- 実際にはプーチン大統領を中心とした権力の集中が進んでいます。
- 野党や反対意見は弾圧され、選挙で不正があると疑われるケースも多い。
🏭 経済への悪影響も…
- たとえば2014年のクリミア併合時には、政治の圧力でビジネスの自由が制限されたこともありました。
- どれだけ法律を整えても、政治が信用されていなければ、企業も安心して活動できません。
➡️ 「自由で公正な政治」がないと、経済も育たないということです。

9. ロシアのこれから:どこへ向かうのか?
今のロシアは、欧米(アメリカやEU)との関係がとても悪くなっていて、経済も孤立気味です。
その代わりに、
- 中国
- インド
- 北朝鮮
など、非西側の国々と連携を強める方向に進んでいます。
🌍 BRICSとの協力
- 「BRICS(ブリックス)」という新興国グループ(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)と一緒に、新しい経済圏を作ろうとしています。
- 2024年にはロシアでその首脳会議も開かれました。
でも…
いくらBRICSのつながりを強めても、欧米との関係が修復されない限り、経済発展には限界があります。
🔑 これからのカギは?
ロシアが本当に成長して「先進国」に近づくためには…
- ウクライナ戦争をどう終わらせるか
- 国際社会との関係をどう修復するか
- 政治体制をどう改革するか
この3つが大きなカギになります。
🧠ロシアの未来は「選択」にかかっている
ロシアは、軍事力や資源の面では大きな力を持っている国です。
しかし、経済の中身や政治の自由度などを見てみると、先進国になるにはまだ多くの課題があるのが現実です。
これからのロシアが、どんな道を選び、どう変わっていくのか――
それは世界全体にも大きな影響を与えるテーマです。

✍️おわりに|ロシアはなぜ“先進国”と呼ばれないのか?
ここまで見てきたように、ロシアは確かに軍事力や資源の面では世界有数の大国です。
しかし「先進国かどうか」を判断するうえでは、単に経済の大きさや軍事の強さだけでは足りません。
教育・健康・自由・産業の多様性――
こうした国民一人ひとりの暮らしの質や、国全体の制度の成熟度が求められます。
🎯 結論として、ロシアが先進国と見なされないのは、経済の規模が小さいからではなく、
政治体制の硬直・言論の自由の制限・産業の偏り・国民生活の不安定さといった、
より深い“中身”に課題があるからです。
今後ロシアがどのように国を変えていくのか、
そして国際社会との関係をどう再構築していくのか――
それは、私たちが世界情勢を読み解くうえで見逃せないポイントのひとつです。
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