今年1年間の出生数が初めて70万人を割り込むだろうという衝撃的なニュースが発表されました。厚生労働省が11月5日に発表した人口動態統計によると、2024年上半期に生まれた赤ちゃんの数は前年同期比6.3%減で32万1,998人にとどまったとしています。速報値ではすでに1月から8月までの数字が出ていますが、それも前年同期比で5.3%減となっており、そこから類推しても2024年の年間出生数は68万人台あたりになる見込みです。出生数は2016年に初めて100万人の大台を割り込み、そのまま過去最低を更新し続け、2022年には80万人割れのニュースが出たばかりでした。このまま子どもの数が減り続けると日本はどうなってしまうのでしょうか?そこで今回のブログでは、日本の少子化に着目しながら、日本と世界で何が起きているのかを比較しながら解説していきます。
日本の少子化の現状
日本の人口は2023年から2024年の1年間で約2万1,000人が減少しました。これは和歌山県の人口が丸ごといなくなったくらいの数です。日本の将来人口の推計を行う国立社会保障・人口問題研究所によると、2040年には現在の人口より約1,100万人減少し、1億1,300万人程度になると予想されています。そのうち15歳から64歳までのいわゆる生産年齢人口は、現在の7,400万人から約6,200万人にまで減少します。この生産年齢人口とは、日本の生産活動の中心となる人たちで、いわば経済成長の担い手であり、年金や医療などの社会保障や私たちの安定した暮らしを支えている存在です。
内閣府が2014年に設置した「選択する未来」委員会では、最悪の場合2040年代以降に日本経済がマイナス成長に陥ると予想されています。生産年齢人口の減少は、日本経済に大きな影響を与えることになります。そうなると医療、介護、農業などあらゆる分野で労働力不足が起こり、食料をはじめとして生活に必要な物やサービスが手に入りづらくなるでしょう。ましてやマイナス成長ともなれば、イノベーションは生まれづらくなり、日本が得意とする自動車産業やロボット技術などの製造業も厳しくなるかもしれません。そうなれば、国際社会での経済大国としての存在感を失う恐れもあります。
また、少子化の後には必ず高齢化が起こります。出生低迷が続けば、2060年には65歳以上の人の割合が40%となり、異次元の超高齢化社会に突入します。社会保障の負担が所得の半分を占め、現役世代の暮らしはますます厳しくなるでしょう。このように、少子化は日本が直面する最大の危機であることから「静かなる有事」と呼ばれています。
少子化について
ここで少子化についておさらいしておきましょう。「1人の女性が一生のうちに産む子どもの数」を指標とする合計特殊出生率は、いくつになると少子化と呼ばれるようになるのでしょうか?
「合計特殊出生率」とは、一人の女性が一生のうちに産む子供の数の平均を示す指標であり、人口が維持されるためには、2.0以上が必要とされています。つまり、この値が2.0を下回ると人口が減少していくことになります。日本で少子化が始まったのは1970年代半ばで、その頃から様々な対策が講じられてきましたが、毎年最低の数字を更新し続け、現在は1.20という水準にまで下がっています。
少子化が続く背景には様々な原因があります。男女ともに結婚年齢が遅くなっていることや、結婚や出産に対する価値観が変わり、結婚しない生き方を選ぶ人が増えたこと。また、子供は欲しいと思っても、仕事と子育てを両立させる環境が整っていなかったり、仕事やキャリアに悪影響があると考える人が増えていることも挙げられます。さらに、昨今では子育てに多大な費用がかかるため、理想の人数の子供を持てないという声も多く聞かれます。
これを受けて、2023年に岸田内閣は「異次元の少子化対策」を発表し、2030年代までの6〜7年が少子化のトレンドを反転させるラストチャンスとし、「子ども未来戦略」を策定しました。この子ども未来戦略は、若い世代が希望通りに結婚し、希望する数の子供を持ち、安心して子育てできる社会の実現を目指すものです。
そして2024年6月、参議院本会議において「子ども・子育て支援法」の一部を改正する法律案が可決されました。政府が示した少子化対策には、以下のような施策が含まれています。
- これまで中学生まで月1万円支給されていた児童手当を、高校卒業まで延長。
- 3人目以降の子供には児童手当を月1万5,000円から3万円に増額。
- 所得制限の撤廃。
また、「異次元の少子化対策」には注目すべきポイントがあります。支援策の財源として新たに創設された「子ども・子育て支援金」があり、この支援金は今後すべての国民の公的医療保険に上乗せして徴収されることが決定しており、初年度で国民一人あたり月250円前後の負担が予想されています。徴収は2026年度から始まり、段階的に引き上げられる予定です。
海外の少子化対策
しかし、こうした家計への支援だけで本当に少子化を解決できるのでしょうか?海外にも同様の子育て支援の前例があり、日本とよく似た少子化対策を行っているのがシンガポールです。
シンガポールの少子化対策
シンガポールでは、経済成長と共に働く女性が急増しましたが、その一方で出生率は急速に低下し、1998年には合計特殊出生率が1.48にまで下がりました。2000年には65歳以上人口が総人口の7%を超え、高齢化社会を迎えたため、政府は少子高齢化対策の強化に乗り出しました。出産時の補助金を支給するベビーボーナス制度や、所得控除、保育料・医療費の補助、企業への父親の育児休業義務化など、思い切った子育て支援策を実施してきましたが、それでも2023年の合計特殊出生率は0.97と過去最低を更新しています。
韓国の少子化対策
韓国も少子化対策に巨額の予算を投入してきましたが、残念ながら2023年には合計特殊出生率が0.72と世界最低を記録しています。これは、単に経済的な支援だけでは少子化を食い止めることが難しいことを示しています。
韓国政府は、2006年から2022年までに日本円で約37兆円(約332兆ウォン)もの資金を少子化対策に費やしました。この巨額の投資にもかかわらず、効果は限定的でした。その背景には、伝統的な性別役割分担の意識が根強く、男性の家事や育児にかける時間が短いという特徴があります。これは日本にも似た状況で、女性が仕事と家事育児の両方を担うことが一般的です。そのため、多くの女性がキャリアか出産かのどちらかを手放す選択を迫られています。
また、韓国では特に育児や教育費が高額で、親に大きな負担がかかることも少子化を進行させる要因です。こうした文化や社会的な価値観が変わらない限り、経済的な支援だけでは出産率の回復は難しいと考えられます。韓国の例は、少子化問題の解決には経済的支援だけでなく、社会全体の価値観や働き方の変革も必要であることを示しています。
スウェーデンの少子化対策
続いて紹介するのはスウェーデンです。スウェーデンは男女平等社会を実現していると言われており、育児と仕事の両立をしやすい
環境づくりに力を入れてきました。その一環として、出産後に夫婦合わせて480日間取得できる育休制度があり、それぞれ90日は母親と父親に割り当てられ、相手に譲ることはできません。この制度により、30代男性の90%、40代の93%が育休を取得しています。
このようにスウェーデンでは、育休を取得することがワークライフバランスを整えるスキルとして前向きに評価される文化が根付いています。スウェーデンの15歳から64歳の人口における専業主婦の割合はわずか1%で、99%の女性が仕事をしているにもかかわらず、合計特殊出生率は1.45と日本を上回る水準を保っています。
フランスの少子化対策
フランスでは、少子化に対処するために多様な家族形態を受け入れ、子どもを持つための障壁を文化的な側面から取り除く取り組みが進められてきました。1990年代に出生率が1.66に低下した際、政府は子育て支援策を強化し、2006年には再び出生率2.0を回復しました。現在でもEUの中で高い水準の出生率を維持しています。
フランスが出生率を回復できた要因の一つには、多様な家族の形を認め、サポートしてきたことが挙げられます。例えば、婚姻の有無や同性カップルかどうかにかかわらず、子育て支援が受けられる仕組みがあります。フランスでは、子どもの約6割が結婚していないカップルを親に持ち、これは一般的な形態と見なされています。また、同性カップルや独身女性にも人工授精や体外受精などの医療支援が提供されており、これも子どもを持つためのハードルを低くしています。
こうした柔軟な家族支援策は、結婚や家族に対する価値観が多様化する中でも、フランスが安定した出生率を保つために効果的な役割を果たしていると言えます。
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ドイツの少子化対策
ちなみに、EUで出生率は低いものの人口が増加傾向にある国もあります。それがドイツです。ドイツは長い間、人口政策への関与に消極的でしたが、移民受け入れを増やすことで労働力の確保と人口増加を図っています。特にシリア難民の受け入れに積極的で、移民家庭の出生率がドイツ全体の出生率の押し上げに寄与しています。今では、出生した赤ちゃんの母親の4人に1人が外国出身であると言われています。これがいいか悪いかは議論の余地がありますが、少なくとも移民によりドイツの労働力は増加し、経済成長に寄与しています。
ドイツの少子化対策は、他国と異なり移民の受け入れを中心に行われている点が特徴的です。ドイツは長い間、人口政策への直接的な関与には消極的でしたが、近年では労働力確保と人口増加のために移民の受け入れを積極的に行っています。
特にシリアをはじめとした難民受け入れに前向きであり、移民家庭の出生率がドイツ全体の出生率を押し上げる一因となっています。現在、出生した赤ちゃんの母親の4人に1人が外国出身であると言われており、移民の影響で人口増加と労働力の確保が進んでいるのが現状です。この移民受け入れ政策は、少子高齢化が進むドイツにとって経済成長を支える重要な要素となっています。
ただし、移民による人口増加については、文化や社会の適応など様々な議論があるのも事実です。それでも、移民の力でドイツの労働力が維持されていることは事実であり、これがドイツの経済発展に大きく寄与している点は見逃せません。
ハンガリーの少子化対策
ハンガリーは、自国民の出生率向上を図るため、移民に頼らず「ハンガリー人を増やす」という目標を掲げ、大規模な少子化対策を実施してきました。2010年に合計特殊出生率が1.25と低い水準だったところから、様々な支援策を通じて2021年には1.5にまで引き上げています。こうした対策は、自国民の出生率向上を目指した政策として注目を集めています。
具体的な支援策として、育休中は出産前の給与の7割が支給され、3人目の子どもを産むと住宅ローンの返済免除や所得税の免除といったメリットが提供されます。また、4人以上の子どもを持つ母親には生涯にわたって所得税が免除されるほか、30歳未満で出産した母親も所得税の免除が受けられる制度が整っています。
こうした「多くの子どもを持つことで生活が安定する」政策が功を奏し、出生率と結婚件数の上昇に結びついています。ハンガリーのケースは、経済的なインセンティブがどのように出生率向上に影響を与え得るかを示す例として、他国からも関心を集めています。
東京の少子化対策
このように、子どもを多く持つほど生活が安定する政策が功を奏し、出生率だけでなく結婚件数も上昇しました。これらの政策に伴う政府支出は名目GDPの5%に及んでおり、日本の子育て支援の対GDP比率(2020年時点で約1.7%)と比較して、いかに力を入れているかがわかります。
さて、日本では出生数の減少とともに、結婚するカップルの減少も顕著です。内閣府の令和4年度の調査によると、日本の20代独身男女のうち結婚の意思があるとしたのは、女性が約65%、男性が約55%で、潜在的には結婚願望を持っている人が多いことが分かっています。こうした若者を後押しするために始まったのが「婚活支援事業」です。
東京都は「東京2人ストーリー」という婚活支援事業を展開し、都内在住・在学の人を対象にさまざまな婚活イベントを開催しています。また、支援の目玉として2024年9月に「AIを活用したマッチングアプリ『東京縁結び』」を運用開始しました。現在では、1年以内に結婚した夫婦の約4人に1人がマッチングアプリで出会っているとされており、東京都がマッチングアプリを推進するという大胆な取り組みが注目されています。
東京都の合計特殊出生率は0.99と全国最低で、これだけ多くの人がいるにもかかわらず、結婚や出産を希望する人が減っていることが分かります。そのため、東京都は多様な支援策やツールを活用して少子化対策を進めています。
終わりに
1950年代頃までは、日本人の多くが貧しく、老後のリスクに備えて結婚して子どもを多く持つことが当たり前でしたが、1960年代以降の経済成長に伴って、年金制度や保険制度が整備され、老後の生活を政府が保障するようになりました。そのため、結婚や出産が必ずしも生活の前提条件ではなくなり、1973年を境に婚姻数も出生率も低下し始めました。少子高齢化は、豊かになった先進国が直面する宿命ともいえるかもしれません。
現在の出生率のままでは、2060年には1人の高齢者を1人の若者が支える「肩車社会」に突入すると予測されています。都市部でさえ子どもの数が減り続ける中、地方の人口減少はさらに深刻です。こうした状況に若者がどのように向き合い、未来に希望を抱ける社会を築くことができるかが問われています。少子化という「静かなる有事」をどう克服するか、日本は今、大きな分岐点に立っているのです。
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