もし日本が移民受け入れを倍増したらどうなるのか?移民問題は今、世界中で議論されている注目のテーマです。日本に目を向けると、外国人労働者が増えることで、今後減少し続ける労働力不足を乗り切れるかもしれないという大きなメリットがあります。しかし、日本国内で外国人が増えるということには、同時に大きなリスクも伴います。日本でも移民の受け入れを拡大するべきか、それとも制限するべきかは大きな問題となっています。
移民受け入れの拡大可否によって、社会や生活が大きく変わることは間違いなく、これからの日本で生きていく上でも真剣に考えるべきテーマです。そこで今回は、日本の外国人労働者と移民との関わりから、他の国の事例を踏まえて、今後何が起きるのかまでを考察していきます。
最後までご覧いただければ、移民の是非を考えるきっかけになり、普段のニュースを見る目も変わること間違いありません。では、早速始めていきましょう。
日本の移民政策
日本は近年、外国人を労働者として積極的に受け入れています。今やコンビニや飲食店などにも外国人スタッフが当たり前のようにいることから、肌感覚としても外国人労働者が増えたと感じられることでしょう。ただし、日本政府は「移民政策は取っていない」という立場にあります。岸田総理は今年6月の参議院法務委員会でも、移民について「一定規模の外国人や家族を期限なく受け入れることだ」として、「今はそういった政策を行っていない」と主張しています。
つまり、外国人労働者は入国時点で日本に永久に住む権利を持っていないため、厳密には「移民」とは言えないのです。日本政府が実施しているのはあくまで外国人労働者を一定期間だけ受け入れるというものであり、長期的な定住を前提としていません。しかし、近年、外国からの労働者の移住は増え続けています。厚生労働省によると、日本における外国人労働者数は204万1867人に達し、過去最高を更新しています。前年よりも22万5950人も増加しており、専門家の中には「これはもう実質的な移民だ」と指摘する声もあります。
外国人労働者が増えた理由
そもそも、なぜこれほど外国人労働者が増えているのかというと、日本の人口減少が深刻なレベルに達しているからです。人口問題研究所の令和5年の推計によると、2020年の国勢調査で1億2600万人だった日本の人口は、毎年減り続け、2070年には約8700万人にまで落ち込むと予測されています。やがては人口のおよそ4割が65歳以上の高齢者となり、15歳から64歳の生産年齢人口の負担が大幅に増加することが見込まれています。このような状況下で、労働力不足を補う策として外国人労働者への期待が高まっているのです。
外国人労働者が増えれば、15歳から64歳の生産年齢人口が増加するため、生産力は向上し、日本経済にはプラスに働くでしょう。また、もう一つの理由として、海外からの投資が増える可能性も挙げられます。外国人労働者の中には、高度な技能を持つ「技能労働者」と呼ばれる人々も含まれており、彼らを多く受け入れることで、企業や産業のレベルが底上げされる可能性があるのです。その結果、海外からの投資が促進され、日本の経済が成長しやすい環境が整うでしょう。
日本政府の移民受け入れの経緯
では、日本政府が外国人労働者の受け入れについて、どのような政策を行ってきたのかを見ていきましょう。政府は2010年頃までは移民の受け入れにあまり積極的ではありませんでしたが、2014年頃から変化が起こりました。政府は「外国人を年間20万人ずつ受け入れ、人口を維持する」というスローガンを掲げ、さまざまな政策を実行してきました。そして、2019年には「特定技能1号」「特定技能2号」という2つの在留資格に基づく受け入れが始まりました。
法務省の「特定技能ガイドブック」によると、特定技能1号は「特定産業分野に属する、相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務」に従事する外国人向けの在留資格です。また、特定技能2号は「特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務」に従事する外国人向けの在留資格で、特定技能1号は最大5年間、日本に滞在できる資格である一方、特定技能2号は無期限で、家族も呼び寄せることができるため、外国人労働者の権利がさらに明確に定められました。
特定技能1号の在留資格を取得した上で、産業分野ごとに実施される試験に合格すれば、特定技能2号が取得可能となり、永住に向けた道が開かれます。
移民増加
もともと特定技能1号は福祉や製造、サービス業など12の分野に設定されていましたが、今年、岸田政権はその対象を16分野にまで拡大しました。これにより、今後さらに多くの産業分野で外国人労働者を受け入れる動きが進むと考えられます。先ほど述べた通り、政府は移民政策を取っていないとの立場を強調していますが、実際には外国人の受け入れが拡大しており、永住の可能性も広がっています。
では、現在日本の外国人労働者はどれほど増えているのでしょうか。入出国在留管理庁によると、令和5年末時点で日本国内にいた外国人は過去最多の341万9192人に達し、このうち外国人労働者は204万1867人と、こちらも過去最高を記録しています。さらに、政府は令和6年度からの5年間で、特定技能1号で受け入れる外国人枠をこれまでの5年間の約2.4倍にあたる82万人に拡大する方針を打ち出しています。2070年には、人口8700万人のうち約1割が外国人になるとの予測もあり、日本で見かける外国人労働者の数は今後さらに増加していくでしょう。
移民受け入れの成功例
外国人労働者の受け入れが進む日本の未来を考える際、すでに移民受け入れを積極的に行っている国々の事例は重要な手がかりとなります。ここでは、成功例としてよく挙げられる2つの国、カナダとオーストラリアを見てみましょう。
まずカナダは、長年にわたり、権利を持つ移民の獲得に力を入れてきました。2023年には史上最多の47万2000人の移民を受け入れています。カナダがこのような政策を取る理由の一つは、少子高齢化問題に直面しているからです。国力の縮小を防ぎ、経済を成長させたいと考え、長年にわたり移民を受け入れ続けています。その結果、移民があらゆる分野で重要な労働力として活躍し、産業を支えています。人口についても、2032年までに移民の力でカナダ全体の人口が増加するとされています。こうした点で、カナダは移民受け入れによって大きなメリットを得ている国といえます。
次にオーストラリアですが、こちらも多くの移民を受け入れている国の一つです。1970年代から、労働力不足を解決するために移民受け入れに踏み切り、技能を持つ外国人を積極的に定住させてきました。移民の増加により、オーストラリアでは労働力が増加し、生産性が向上、持続的な経済成長が続いています。また、若年層の移民も多く、人口バランスの高齢化が抑制されるという効果もあります。専門家の中には、オーストラリアの世界最長の26年間の経済成長が移民に支えられていると指摘する声もあるほどです。
このように、カナダやオーストラリアは自国にとって有益な移民を募り、経済成長や人口バランスの維持に成功しています。
海外での失敗例
これに対して、移民受け入れがうまくいかなかった失敗例として、ヨーロッパのいくつかの国々がよく取り上げられます。ヨーロッパ各国では、大量の移民が流入した結果、民族構成が大きく変わり、社会や文化に大きな影響が出ているとの指摘がなされています。たとえば、イギリスのロンドンでは、数年前から白人のイギリス人が少数派になりつつあり、スウェーデンでも、今後30年以内に主要都市すべてでスウェーデン人が少数派になると予測されています。これにより、ヨーロッパが「本来の欧州らしさ」を失い、文化的アイデンティティが薄れることへの懸念が高まっています。
また、キリスト教文化が根付くヨーロッパにおいて、イスラム教徒の移民が増加していることで、文化的・宗教的な性格が変わりつつあります。例えば、イギリスでは国民のキリスト教徒の割合が過去10年間で72%から59%へと減少しており、2050年までに13%にまで減少する見込みです。同様に、オーストリアでも、21世紀半ばまでには15歳未満の過半数がイスラム教徒になると予想されています。
多くの欧州人は、移民やその子供たちがヨーロッパで長く暮らすうちに西洋の価値観に馴染み、それを受け入れると楽観的に考えていました。しかし、移民の中には、自分の宗教や文化に強いアイデンティティを持ち、西洋の価値観を共有しない人々も多くいます。実際、イスラム教徒の利益を守る圧力団体が各地で組織化されており、フランスの風刺新聞「シャルリー・エブド」への襲撃事件などもその一例です。これにより、欧州の文化や価値観が抑圧されてしまう恐れが出ているのです。
また、ドイツでは、メルケル元首相の下で2015年以降、中東や北アフリカから100万人以上の難民を受け入れており、依然として難民をほぼ無制限に受け入れています。しかし、移民との間で治安問題や社会的な圧力が生じており、2023年のドイツの犯罪件数は前年比で5.5%増加し、約594万件に達しました。犯罪増加の一因として、外国人容疑者の増加が挙げられています。移民が増えるほど、犯罪率も増加傾向にあるため、治安の悪化が懸念されています。
さらに、ドイツではイスラム教徒によるデモも頻繁に発生しています。特に、ドイツ政府が歴史的背景からイスラエル支持を表明していることに対する反発があり、イスラム教徒の一部が反イスラエルの立場を示すデモを起こすこともあります。このように、ヨーロッパ諸国は移民受け入れによる経済成長の恩恵を享受する一方で、文化の喪失や治安の悪化など、多くの課題にも直面しています。
受け入れ拡大によるリスク
以上の事例を踏まえ、日本が移民受け入れを拡大した場合、どのような影響が予想されるでしょうか。カナダやオーストラリアのように、経済面でのメリットを享受する可能性は高いでしょう。労働力不足の解消や経済成長の促進に加え、高度な技能を持つ外国人材が増えることで、日本企業の国際競争力が強化されるかもしれません。また、多様な文化背景を持つ人々が増えることで、新しいアイデアや視点がもたらされ、創造性豊かな社会が形成される可能性もあります。例えば、ドイツでは移民の増加によって出生率が上昇し、人口減少のペースが緩和されるという効果も見られています。日本でも若い移民家族が増加することで、出生率が上がり、人口減少が緩和される可能性があります。
一方で、移民の増加に伴うリスクも無視できません。言語や文化の違いによるコミュニケーションの問題、教育システムや住宅、医療サービスの需要増加など、多くの課題が予想されます。さらに、それらの課題に対応するためのコストも大きなものとなるでしょう。文化的な衝突や治安の悪化も懸念され、すでに埼玉県川口市や蕨市では、クルド人コミュニティとのトラブルが社会問題として報じられています。
外国人労働者が日本の文化に溶け込んで共生するケースも多いですが、ニュースで取り上げられるのは過激な例が多いため、移民全体への偏見が生まれやすい傾向にあります。準備が不十分なまま移民を増やせば、文化的な衝突が増え、日本全体で混乱が生じる恐れもあります。
現在の日本政府は、こうしたリスクと引き換えに経済成長を図るため、外国人労働者の受け入れを進めています。今後、日本で外国人が増えていくことは避けられないとみられる中、私たちにはどのような社会を目指し、どのように共生していくかを考えることが求められています。
今後の日本の対応
移民の受け入れを進めるにあたって、重要なのは「多文化共生社会」の形成に向けた制度の整備と社会全体の理解と協力です。日本での外国人労働者の増加は避けられない流れであり、彼らが日本社会に適応しやすく、日本人も外国人に対して寛容な態度を持てるような取り組みが必要です。たとえば、外国人向けの日本語教育や生活指導、就労支援などを通じて、相互理解を深めることが大切です。また、日本の文化やルールを尊重しながらも、多様な文化が共存できる仕組みを作ることも求められます。
さらに、地方自治体や地域コミュニティも積極的に関わり、外国人労働者の地域社会への参加をサポートすることが重要です。たとえば、外国人が地域のイベントに参加しやすい環境を整えたり、文化交流の機会を提供したりすることで、双方の距離感が縮まりやすくなります。また、企業も異文化理解を推進するための研修を行うなど、多文化共生への意識を高める取り組みを行うことが重要です。
こうした取り組みが進むことで、外国人労働者も日本の一員として定着し、経済や社会に積極的な貢献をする可能性が高まります。一方で、私たち日本人も、外国人労働者の存在を「労働力」としてだけではなく、同じ地域社会に住む仲間として理解する姿勢が求められるでしょう。外国人が増えることで、新しい価値観や視点が生まれ、社会全体が豊かになる可能性もあります。
もちろん、移民受け入れには課題も多く、慎重なアプローチが必要です。日本ではヨーロッパの例を参考にしつつ、犯罪対策や社会の分断を防ぐ取り組みも並行して行うべきです。具体的には、治安を維持するための法整備や教育システムの強化が考えられます。また、必要に応じて文化的な違いから生じる問題に対して、中立的な第三者機関による支援や仲介を行うことも有効でしょう。
移民政策は、単に労働力不足の解消を目指すだけでなく、未来の日本社会の形を決める重要なテーマです。これから私たちは、他国の成功例や失敗例を学びつつ、日本独自の共生のあり方を模索していく必要があります。経済成長と社会の安定を両立させ、多様性を尊重する社会を築くことが、移民受け入れを通じて日本が真の意味で成長するための道であるといえるでしょう。
移民受け入れの道を選ぶかどうか、その選択が日本にどのような未来をもたらすのかは、まだ未知数です。しかし、変化を前向きに受け入れ、多様性の中で強い社会を築いていくことで、私たちの生活もまた新しい発展を遂げる可能性が広がるでしょう。
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